第八話 破壊の壁波

 アルエディー一行が帝国入り口の国境の町エストに到着したのは獣連の月20日だった。ここに来るまで途中の町の宿屋の支配人から聞いたとおり帝国兵は一切いなかった。しかし、その分異形の怪物が多く徘徊していたのである。彼等は帝国兵が駐屯していない事を待ちの住民に確認するとエスト内で最も大きく洒落の利いた宿へと向かった。そして、その場所に到着すると支配人に一等級室を二つ借り、その鍵の一つをセレナに渡し、その部屋へと向かった。

「このような部屋に泊まっても宜しいのですか?」

「すっごぉ~~~い、ティアこんな部屋初めてです」

「長旅、疲れただろ?それにこれからは帝国内部に入る。野宿が多くなると思う。だから今ぐらいいかなって」

「いやぁ~~~、お堅い騎士さんだと思っていましたが案外、気を遣ってるんですね」

「そうなのか?」

 レザードがからかい半分でいったその言葉は目の前の騎士には通じなかった様だ。アルティアとセレナの二人は男二人の会話を無視して嬉しそうにその豪華な部屋に入って行く。そして、廊下に立っていた二人も彼らの部屋へと移動して行くのだった。

 部屋の中に入るとアルエディーの方からレザードに声をかけ、

「レザード、今からギルドに行くんだけど付き合ってもらえないか?」

「何用にですか?」

「帝国の情報を仕入れに」

「しょうがないですねぇ~、面倒ですけど付き合ってあげますよ」

「ありがと」

 そうして、二人はセレナとアルティアにその事を告げ、冒険者ギルドに向かい、そこで手に入れた情報にアルエディーもレザードも驚愕していた。対岸にある帝国の町、ヴィステンが壊滅し、そこの住民は殆どが死に絶え、僅かばかりの生き残りがこの町に避難して来ていると言うのを聞きつけたのだ。その真相を確認するためセレナ、アルティアを連れ、対岸の町に一行は向かうが、国境付近まで来ると四人は目視できない、何らかの物凄い衝撃に襲われ後退を余儀なくされてしまう。

「セレナ、ティアちゃん、レザードっ、大丈夫か!?」

「ハイッ、私は何とか」

「私も大丈夫です」

「いったぁ~~~いっ。足、すりむいちゃいました」

 アルティアは薄っすらと涙を浮かべ、傷めた部分を手で覆い、そちらへと視線を向けていた。それを見たセレナが直ぐに彼女の元へ近づくとその怪我した方の膝に手を当て治癒の魔法を唱えるとあっと言う間に傷は塞がり消えて行った。

「しかし、参りましたねぇ~~~、これじゃ帝国の中に入るのは無理です」

 全然といって言い程、困った風な表情をせずレザードはアルエディーに言葉を投げると、

「いったいどうして・・・、ギルドで聞いたときは・・・」

「答えは簡単な事ですよ、目の前の衝撃の壁は刻々と王国側に向かって移動していると言う事でしょうかね?」

 三人はレザードの言葉を聞いて目の前を見つめた。はっきりと彼等の目に映らないがそこには左を向いても、右を向いても、上を覗いても限りない彼らの理解できない大気、衝撃波の様な奔流の壁が存在していた。そして、それは触れるものすべてを破壊して行く。

「くっ、このままでは向こう側にも進入できない。それに必要以上に人々が危険に晒されてしまう。でもどうやって帝国の連中は多くの兵をこちらに向けているんだ」

「帝国にいる魔力の高い者達が転送方陣を使ってか、若しくは古代遺産の転送機を使って送り込んでいるのでしょう、確証は持てませんけど」

「あっ、確かにあの時もそうだったな・・・」

 アルエディーは何かを思い出したように今まで話していなかった事を、何故、早急に王都が陥落してしまったのか、その真相を場にいる三人へ聞かせていた。

「フゥ~~~ん、そうでしたか・・・、でも今はここにいても仕方がありません。一度宿に戻って考えましょう」

 アルエディーはレザードの言葉に従って乗ってきたトルーチェに再びまたがり、四人して宿へと帰って行く。


†   †   †


 その頃、ファーティル王国―王都エアでは?その都市の中心から北西にある陥落した城内の一室。

「ほら、さっさと吐いちまったらどうだい。そしたら楽にしてやるのにリゼルグ・ぜ・ん・こ・く・お・う・様」

「だまれっ、痴れ者メが貴様たちのように見るからに怪しい輩にこの命尽き様ともそれは教えられんことだっっ!」

「ほぉ~~~、そうおっしゃいますか。しかし、困ったものです。自白剤も効かないし私の幻術も拷問もテンで堪えない・・・、まったくタフな王様だよ、あんたは。しかし、その強がりも今のうちだけだよ。あんたの息子と娘は私たちの手にある。二人がどうなってもいいんなら別に答えなくてもいいんだけどねぇーーー」

「フッ、馬鹿もたいがいにしたらどうだ、そこの女よ。アルエディー君が確りと二人を守っているはずだ。お前等などの輩にどうこうできる子ではない」

「あぁ、そいつだったら谷から落ちて死んじゃったって私の仲間が言ってけど。親子、そろって役に立たないロイヤルガードねぇ」

「わが友を愚弄するなっ、何を世迷言をっ!」

「信じる、信じないはあんたの勝手。まぁいいわぁ、あんたにはもう少し私の遊び道具になってもらうから。アァーーーッハッハッハッ」

 その女は大きく嘲笑するとその部屋を去って行った。

「くっ、アルエディー君、おぬしは今どこでどうして?アレフ、セフィーナ二人とも無事なのか・・・・・・」

 両手両足を枷に繋がれ、満身創痍、殺傷や蚯蚓腫れの様な全身傷だらけのリゼルグ前王は虚ろな目を宙に泳がせ、そう小さく呟いていた。


†   †   †


「へっ、へっ、ヘックシュン」

「アル様、どうなさったのですか?風邪でも引いてしまわれたのですか?」

「大丈夫、気にしないでくれ、ただ鼻がムズムズしただけだから」

 国境から帰ってきた一行は宿の酒場でこれからどうするかを考えていた。

「あの様子ですと空から飛び越えても地上から穴を掘って地中からの潜入も無理なような気がしますね」

「なぁ、レザード、ティアちゃん、二人の魔力であれ何とかできないか」

「馬鹿な事、言わないでください。あんなもの私と妹だけではどうにもできません」

「そうですよ。アルエディー様、無理を言わないでください」

「誰かあれの事を知っている人がいれば何か対策を立てられるのですが」

「ものしりか・・・・・・、なぁ、デュオ爺、何か知らないか?」

 みんなの前に出していた精霊王にその騎士は悩ましそうな顔で尋ね聞くと、

「小僧、そんな顔しても無駄じゃ、精霊はお前らアスターが仕出かした事に関与しちゃならんのじゃからな・・・、だからそんな顔しても無駄じゃよ、むぅだぁ~~~」

 セレナとアルティアがアルエディーのその顔を真似してデュオラムスに見せると、態度急変しそうかとアルエディーもレザードも思うがしかし、

「うぅうぅ~~~、駄目、駄目、いくらティアちゃんとセレナ殿がそんな顔しても手助けできんよ」

「はぁーーー、やっぱりだめですか」

「・・・・・・、確かにわしは何も教えられんが、ほら小僧!お前は今までの旅で色々な知り合いを作ってきたじゃろう!その中に詳しいモノがおるかも知れんヨォ~~~ク、考えてみぃ」

 精霊王のその言葉に騎士は目を瞑り、何かの記憶を辿っていた。

「そうか!あいつなら!!」と握りこぶしを掌に打ちつけ、何かを思い出した様だった。

「誰かを思い出したのですか?」

 アルエディーはその思い出した人物について目の前に座っている三人に聞かせ始めると、

「ほぉーーーっ、貴方にそんな知り合いがいたとはびっくりです。今後の魔導勉強のために是非ともお会いしてみたいですね」

「アルエディー様ってとてもお顔が広いのですね」

「騎士になる前、士官学校に入学するその歳まで親父から家を追い出され、見聞と剣術を鍛える旅をしていたから・・・、それにそこにいけば約束していた人物にも会えるし、一石二鳥」

 それからアルエディーはどういった道順でそこへ行くのか三人に説明した。

「・・・、ってことで今まで以上の長旅になる。だから今日は確り休んでくれよ」

「まだ、しばらくアル様とご一緒できるのですね」

「貴方との旅なら面白い事がこれからもおきそうです。私もまだまだ同行させてもらいますよ」

「もっといろんな所を見に行けるんでうすね。とてもわくわくします」

「はぁ~~~、お前らなんでそう気楽に物事、言えるんだ」

「まぁ~、わたくしどもは貴方と違いまして民間人ですからね、フッ」

 緊張感にかけた目の前の一般人に騎士である彼は苦笑するしかなかったようだ。


◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆


~ メイネス帝国―ハーモニア城小軍事会議室 ~


「くっ、こんな時に南部の馬鹿どもめが・・・」

 メイネスの宰相はボヤキ、神経質そうな顔付きで爪を噛む。

「大元帥として宰相に進言するこのような状態では南部大陸のモノに我が国が蹂躙されてしまいます。即刻にファーティルとサイエンダストリアルから兵を引きこれに対処しませんと。今までの戦歴から見ても分かるとおり、彼らは脅威でであることは貴方にも分かっているはずです」

「僕もイグナート様と同じ考えです。我が国の危機と言うときに他の国を攻めるなどとはバカげた事です。早急な対応をせねば」

「えぇええいっ、黙れ、全軍など引く必要は無い。ヨシャ元帥殿、貴殿の配下の者だけで十分だ!」

「それとウィストクルス元帥、貴殿とその配下はアルエディー達の探索を続ける事を命ずる・・・、以上解散だ」

 宰相はそ探索探知器け言い残すと他の者の意見を聞かずして苛立ちげにこの場を去って行った。

「はぁ~私の血にあのような輩と少しでも同じ血が流れていると思うとなんとも情けない事です」

「ヨシャ、誰が聞いているか分らない。あまりそのような言葉を口にするのは・・・、それとウィス、辛いだろうけどいまの任務を任せましたよ」

「兄上が気になさらなくても上手くやっています。・・・、私はやらなければならない事がありますので失礼します」

 そう言ってイグナートの弟であり元帥の一人がこの場を立ち去って行った。

「イグナート様、今の我々の行動に国内の不満が高まってきていますぞ。このままいけば・・・、どう対処するのです?」

「わかっているが、しかし・・・」

「仕方が無いですね。暴動が起きたらその時はその時で何とか対処するといたしますか」

「ヨシャ、貴公にはいつも気苦労掛けさせてすまない」

「いえいえ、次期、皇帝のためですから・・・、それじゃ私も南部の連中を蹴散らすために行きますよ。それでは・・・」

 もう一人の元帥ヨシャもそう言ってイグナートの前から姿を消した。イグナートは会議室の窓から何も考えずに窓の外を眺めていた。ど探索探知器け無意識にそうしていたのであろうか?一人の兵士がこの場へ足を踏み入れてきた。

「イグナート様」

「オスカーか?どうした何か分ったか?」

「いえ、国内中至る所を探しましたが・・・、見つかりませんでした」

「この状況ですと帝国内ではなく他の二国のどこか、或いは他国にいると思われます」

「フゥー、探索範囲がこの国以上となると・・・」

 大元帥は自分の副官に囚われの身となっている彼の母親と妹の探索をさせていたのだった。

「お続けいたしましょうか?」と彼女は表情を変えないまま冷静にそう聞き返していた。

「これ以上副官の君が私のそばから離れていると怪しまれる・・・、だからこれまでにしよう・・・」

「承知いたしました・・・、ですが私の知人にそれをやらせる事にします」

「オスカー、今までご苦労だったな、ありがとう」

「いえ、イグナート様のためですから・・・、では私はこれで失礼いたします」

 オスカーは上官に一礼をして機敏に立ち去って行く。そして彼もいる必要の無くなったその場から立ち去ったのであった。


◇   ◆   ◇◇   ◆   ◇


 アルエディーは部屋に備え付けてあったEVで帝国放送を眺めていた。

「おいっ、レザード、見てみろっ、これっ」

「そんなのいまさら見てもしょうがないじゃないですか」

「そうじゃなくて、今まで友好関係だった帝国にこんな事、言いたくないが・・・、南部の連中が攻めてきてこの国と共和国に駐屯していた兵が・・・」

「これで帝国に追われる機会が減っていいですねぇ。でも、私としては前途多難な旅の方が面白くていいんですけど」

「はぁ、馬鹿も休み、休み言ってくれよ。普通に旅しているならそれでもいいけど、今は出来るだけ穏便に事を運びたい」

 無邪気そうな表情でレザードが言った言葉にアルエディーは呆れた顔を作りそう答えていた。


†   †   †


 翌日、新たな思いを胸に秘めたアルエディー、セレナ、レザード、アルティアの四人はトルーチェに跨り、エストまで通ってきたディクス王国道を使って西へ、サイエンダストリアル共和国の方角へと逆戻りする事となった。

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