第四話 癒しの力を持つ聖女

 王城内最奥の谷から落ち激流に流された騎士はある町付近の岸辺に乗り上げていた。丁度その頃、その町の自警団が見回りをしていた時に偶然助けられ、それから町の医者では無くある女性によって彼の治療が施された。

 しかし、傷の手当てはされたものアルエディーは一向に目を覚ます気配なく数日が過ぎようとしていた。

『ティーーー、テュルルルゥ~~~♪』

 毎日の様に陽が昇れば彼のいる部屋の開けられた窓際にいる小鳥達か可愛らしく鳴き、騎士に朝の目覚めを報せていた。その窓からは心地よい風が爽やかに流れレースのカーテンをヒラヒラと静かに躍らせていた。アルエディーが寝ている部屋に一人の清楚で優しそうな乙女がベッドの近くの椅子に座り彼の目覚めを静かに待っていた。

「ウッ、グゥ・・・、ウウウゥー」

 数日間、目を覚まさなかったその騎士が目を開き呻きながら身体を起こそうとし、

「お目覚めになられたのはよいですがまだ身体を起こすのは良くありません」

 看病していた女性が優しい言葉で言ってくれるのにも係わらずアルエディーは無理に身体を起こしそんな彼女に言葉をかける。

「君が・・・、俺を助けてくれたのか?傷の手当てをしてくれたのか?・・・・、済まんその前に自己紹介が先か」

「自己紹介は必要ないと思いますアルエディー様」

 彼女の言葉に不思議そうな顔をして聞き返そうとアルエディーは言葉にしようとしたが彼女の方から先にその理由を告げてくれるようだった。

「ファーティルでアルエディー様と貴方のお父様ウォード様を知らない方はそれほどいないと思います。それと私はセレナ・ハーサと言います・・・、セレナと呼んで下さい・・・、生まれは貴方と同じヒューンです」

「セレナさん・・・、どうしてそんなことが言えるんだ?」

「〝さん〟もいりません・・・、アルエディー様はご自分がど探索探知器け有名なのかご存じないのですか?」

「しらない・・・。セレナ・・・、実は堅苦しいの余り好きじゃないんだ。俺がこう呼ぶなら君も様なんってつけないでくれ、俺のことアルって呼んでくれても構わない」

「アル様でよろしいですか?」

「・・・、好きな様に呼んでくれ」

「ハァイッ・・・、それとですね理由ですが・・・」

 セレナと名乗る女性はアルエディーとウォードがどうして有名なのかを彼に聞かせた。

 ファーティル、メイネス、サイエンダストリアルの三国で年に一度、闘技大会が行われていた。ウォードはその大会に九年間にもおよび連覇を果たしていた。そして、ウォードが出場しなくなった年から息子のラウェーズが最年少十八歳でその大会で優勝を手にしていた。連覇はないが三回優勝を獲得している。その大会はエーテル・ヴィジョン(EV)と呼ばれる映像投影機で放送され大抵の人がそれを見ていた。

「そうだったのか?有名になりたくて出場したわけじゃないからな・・・、でもこれからの行動に有名なのも困るな」

「アル様どうしてですか?」

「その顔だとセレナはまだ知らないようだな・・・、エーテルヴィジョンあるか?それをみれば多分、理解できる」

「少々お待ち下さい、今ここへそれを持ってきます」

 彼女はそう言って淑女的な動作でその騎士のいる部屋を出て行った。怪我の所為でベッドから出られないアルエディーは彼女が戻ってくるまで自分が寝かされていた部屋の中を観察し、自分の荷物の所在を目で追っていた。

 それから、暫らくしてセレナはその持ってきた物をアルエディーと彼女の見える位置に置くと桿頭を押して作動させた。アルはチャンネルを帝国放送に変え、王都襲撃の事が流れていないか確かめていた。

 すると矢張りその襲撃の映像が流れファーティルがメイネスに落ちた事を伝えていた。

「ただいま我々は以下の者を探している。いずれも生け捕りにした場合のみ有効で賞金を授与する」

「アル様・・・、何か凄いことになっていますね」

 セレナは言葉とは正反対に態度は驚きの様子を示していなかった。とても冷静な女性なのか、それとも見た目とは違ってとても鈍いのかは現時点のアルには分からなかった。

「ハハッ、なんだか俺に賞金が掛かってしまったみたいだ。さてさてどうしたものか・・・??」

「アル様・・・、心配しないで下さい。私のこの町にはファーティルを裏切るような人達は住んで居ないはずです。治癒の力で傷口をふさいでおきましたが完全では有りません・・・、それまで私のこの家でゆっくりと養生してくださいませ」

「セレナ、今なんって言ったんだ?たしか治癒の魔法が使えるって・・・??」

「それほど役に立ちませんが小さな怪我くらいなら直ぐに治せます」

 アルは不思議そうな顔でセレナに聞くと彼女は微笑みながらそれに答えた。

 この世界には多くの魔法体系が存在し精霊と契約すれば誰でも簡単な魔法なら操ることも可能だった。だが、治癒魔法だけは例外で、そうはいかない。その魔法を使うには水と火、光と闇の精霊と同時に契約しないと駄目なのである。しかし、対極に位置する精霊を従えることは難しく、魔力に長けたデューンですらそれに成功するのは稀だと言われている。それがヒューンとなれば奇跡に近い。だからヒューンでその力を持つものは聖女と呼ばれ貴ばれている。

「聖女セレナか・・・君にあっているかもしれない・・・」

「アル様・・・、そんな恥ずかしいこと言わないで下さい・・・、yaminoseirei・・・、mear」

 騎士のその言葉に顔の温度を上昇させたセレナは言葉の最後に何かの魔法を詠唱していた。すると・・・、アルは事切れた様に静かに眠ってしまう。セレナはアルエディーに向かって闇の精霊に属する安眠の魔法を唱えていたのだった。


◆   ◇   ◆◆   ◇   ◆


 アルエディーが眠りに就いたその頃、メイネス帝国の帝都ユーラの中央に位置するハルモニア城内の一室で。

「兄上、このたびの戦いに何があると言うのです!友好国ファーティルと争うなど・・・、私は信じられません。それにアルにあのような賞金までかけて・・・」

「ウィスよ、私とて本意でした事では無い・・・、しかし分かってくれ。今は・・」

 今この部屋に居るのは帝国第一皇子のイグナートとその弟、ウィストクルスであった。

 兄は二十八歳にして帝国の大元帥を務め、慈愛に溢れ国民の信頼も高い。そしてその才能は軍事だけで無く政界にも及んでいた。だが、しかし現在の宰相の姦計によって政界から追いやられている。

 弟の方は卓越した戦術、戦略の持ち主で元帥を任されている。個人の剣技も剣聖と謳われ、同じ血を受け継ぎながら兄の剣技を遥かに凌いでいた。しかし、彼は才があるにも拘らず争う事を好まないとても優しい心の持ち主であった。それとアルエディーと十三歳まで同じ幼年学校に通っていた。それからその後、帝国と王国が共同経営管理する士官学校を共に卒業してもいた仲の良い親友同士の様なものだった。お互い国に戻ってからも交流は長く、国を越えた友情で結ばれていた。

「分かってます・・・、今回の事はあの宰相の企てた事でしょう・・・、でもどうして政治の者が・・・、どうして止められなかったのですか?」

「・・・、ウィス・・・、今一体誰がこの国の皇帝を務めていると思う?」

「何を当たり前の事を?父上、ラウスではないか!」

「違う・・・、お前がイグラディアに大使に向かっている間、父は暗殺され・・・・・・・・・、その亡骸をマクシスの手の何者かが操っている」

「ソッ、そんなバカな!!」

「そ探索探知器けではない・・・・・」

 第一皇子は全ての真相を弟に告げ、マクシスの裏にいるモノによってラウス皇帝が殺され操られ、二人の母親であるナルシアは捕らえられ、あまつさえ第一皇女のエアリスまで囚われの身となってしまったのである。二人の皇子が手ゴマになる様にマクシスと言う宰相はナルシアとエアリスを人質に取ったのであった。

「母上が?エアリスが・・・、なんだって?イグナート兄上・・・、ご冗談を!!嘘だと言ってください」

「それが嘘だったらマクシスなど切り殺しても軍事行動に出る事はしなかった。私とて戦いたくなかったのだよ・・・・・・。しかし、二人を人質に取られてしまっては・・・。ウィス、この話しは一先ず終わりだ。我々二人で密会している所をマクシスの手の者に知られでもしたら・・・」

「兄上がそういうのであれば私は・・・・・・」

「私が先にこの部屋を出る・・・、時間を見計らってお前も出る様に」

 第一皇子は弟にそう告げると堂々とした風格でその部屋を後にした。

「クッ、私が出ている間にこんな事になるなんって・・・、アルエディー、君は無事でいるのかい?」

 ウィストクルスは不安を募らせた表情で嵌め殺しの窓の外を眺め、様々な思いを秘め、その部屋から退出してゆく。

~ハルモニア城第一軍事会議室~


「時間に後れて来たようですがイグナート大元帥殿、どちらに参られていたのですかな?」

「マクシス、貴様は人のプライベートまで監視する気か?」

「いえいえとんでも御座いません。それでは会議を始めようとしましょうか」

 会議室に大元帥、それとウィストクルスとは違うもう一人の元帥、ヨシャ・ヤングリート。ヨシャの下に就く三人の将軍、地龍将軍、ビトゥーのソナトス・タイラー。水星将軍のコースティア・オリンズ。女でありながら若干21歳で将軍職に就いた闇都将軍、イリス・チュートリアとその副官、ミナ・サイキ。ファーティルの王城陥落の際に異形の怪物を操っていた禁術士、ホビィー・デストらがそこにいた。

「ファーティル王国だけでは飽き足らずインダストリアル共和国まで攻め込むだと・・・、バカな!」

「イリス、若輩一将軍如きが言葉を慎みなさい。皇帝陛下のご所望であらせるぞ!」

「本当にラウス皇帝様が言ったことなのか!あの方がそのような・・・」

「ホォ~~~、ソナトス、我が言葉が嘘と申されるか?若し皇帝陛下の言葉と我が言葉に偽り無かったら即刻、その首を切り落とすぞ・・・、それでも良いかな?」

 マクシス宰相は勝ち誇ったような顔と強気の口調でソナトス将軍に返答していた。

「グッ!」

「マクシス宰相、その位にしていただけませんか?ソナトスは我々にとって大事な戦力なのです。そこら辺の無能と一緒の様にしないで頂きたい」

「フフッ、ヨシャの言うとおりであったな。・・・イグナート大元帥殿、貴方は何か異論おありですか、ククッ」

「いえ、皇帝の決定ならそれに私は従うまでだ」

「そうか、それでは決定した。今日より六日あとに共和国へ侵攻する武官たちよ、後は頼んだぞ」

 マクシスは決起日を告げると満足げに禁術士と共に会議室を去って行く。

「ぬぐをぉーーーーーー、マクシスの奴デカイ顔しやがって」

『ズゥガァンッ!!』

 地龍将軍ソナトスは会議室の壁を渾身の力を込めて打ちつけた。その衝撃で部屋全体が少し揺れ、壁から破砕したクズが零れ落ちた。

「部屋を壊す気かソナトス?すこし落ち着け!腹を立てているのは別にお前だけではない。私とてあんな者に大きな顔をされるのは嫌だが・・・、皇帝陛下の命だ、従うしかないだろう?」

「ウグッ、すまぬコースティア・・・」

「イグナート様、今回も僕が出陣します。貴方様は手を汚さぬよう後方で待機していてください」

 第一皇子の隣にいたそのヨシャ元帥は小さくイグナートにそう囁いた。

「私も動かなければ怪しまれる」

「それではイグナート大元帥様はちまちまと適度に動いてくだされば後は僕が何とかしますよ」

 イグナート以外に現在の帝国内部の現状を知っているヨシャはそう大元帥に告げると何かを考えながら配下の三章軍を連れ彼もまた会議室を去って行く。


◇   ◆   ◇◇   ◆   ◇


 アルエディーはセレナの魔法から解放され夕方ごろに再び目を覚ました。

「アル様お目覚めになったのですね?」

 身体を起こしたアルを見て傍にいた彼女が微笑ましくそう言葉にしていた。

「ふあぁ~~~、何だか不思議なくらいぐっすり眠れたようだ・・・、セレナ、あの時、俺に何かしたか?」

「オホホホッ、何の事でしょうかアル様?ワッ、私には全然分かりません事です・・・、それよりお腹は空いていないのでしょうか?」

「グゥーーー、キュルキュルキュルゥ~~~・・・、俺の胃は正直のようだ・・・何か食べさせてもらえると有難い」

「はい、少々お待ち下さい」

 セレナはアルにそう言葉を残して軽快な足取りで去って行く。程なくして木製の盆を持った彼女がエプロン姿で現れた。

「私が作ったものですからアル様のお口にあうかどうか分かりませんがこちらのシチューとパンをどうぞ」

「いきなり厄介になって介抱までされて食事まで出してくれた君に文句なんって言うはずないだろ。有り難く頂かせてもらうよ」

「ハイ、どうぞ召し上がってください」

 セレナからその言葉を聞くとアルはスプーンを取ってシチューを口に運んだ。アルが食事にがっついている間、セレナは彼の食べる姿を嬉しそうに眺めていた。

「セレナ、そんな風に見られたら何だか恥ずかしくて食べにくいのだが・・・」

「フフッ、ゴメンなさい」

 彼女はそう言って視線を別の所に移す。それを確認したアルは再び手を動かして食べ始めるが・・・、またセレナの視線が彼の所へ戻っていた。最後はアルの方が諦めて顔の温度を上昇させたまま彼女の用意してくれた物を食べ終えていた。

「美味しかった。ご馳走様」

「お粗末さまでございました・・・、何だか嬉しく思います・・・」

 彼女の最後の言葉は目の前の騎士には届かなかったようだ。

「セレナ、ところで君以外にここには誰かいないのか?家族とかは?」

「ハイ、私以外ここには誰も居ません、独りです」

「アッ、ゴメン俺余計な事を聞いてしまったのか?」

「平気ですからアル様、気にしないで下さい」

 彼女は淋しそうな表情もせずに申し分けなさそうな顔をしているアルエディー言い返し、それからセレナは彼女の生い立ちについて彼に話したのである。

「ソッカ、動ける様になったらその司祭に会って礼を言わねばな」

「エッ、どうしてですか?」

「その人が君を拾ってこんなに立派に育ててくれなければ・・・、とっくの昔に俺はあの世だったって事さ」

 どうしてなのかアルの言った言葉にセレナは顔を紅くしてしまったようだ。

「どうした?セレナ顔が赤いぞ?俺の看病の疲れのせいで熱でも出たのか?」

「そっ、そんな事ありません」

「それならいいんだけど・・・、セレナに一人自己紹介する奴を忘れてたんだ」

「エッ、どなたですか?私がここへ連れてきたのはアル様だけですよ?」

 彼女の言葉にアルは左手に身につけていた大きな半球形の精霊石が納められている手甲を兼ねた手袋を見せる。

「それって、アル様の傷を癒すとき外そうと思っても外せなかった物。それがどうかしたのですか?」

「これはな、俺の意思で外したり身につけたり出来るものなんだ・・・、seireiou、デュオラムス」

 彼が何かの用語を言ってから〝デュオラムス〝と口にすると精霊石が輝き始めその光の中から朧の姿であるが陽炎の様に何かがゆらめき現れ、

「おお、小僧か・・・、生きておったようじゃな。うむ、よしよし」

「ああ、彼女に助けてもらって命拾いしたよ・・・、セレナ、紹介する俺の剣に力を与えてくれる精霊の中の精霊、精霊王デュオラムスだ」

「小僧、よかったのぉ、こんなえらい別嬪さんに助けられたようで」

「エッ、嫌です・・・、その・・・、そんなに私・・・」

 精霊王の言葉を聞いて嬉しかったのかセレナは顔を紅くし両手でその表情を隠してしまった。

「デュオ爺、精霊王のクセに鼻の下伸ばしながらそんな事言うなよ」

 呆れ顔でヒューンなどより絶対的に格の高い精霊王に対してその騎士はそう言葉にした。

「黙れ、小僧!精霊王だろうが何だろうが可愛らしい娘にああ言って何が悪い、鼻を伸ばして何が悪いのじゃ」

「ッとまぁ、デュオ爺はこんな奴だ。セレナ宜しくしてやってくれ」

「タックこの小僧がぁーーー、生意気いいおって」

「デュオラムス様、セレナ・ハーサです。宜しくお願いしますね」

「ウム、くるしゅうないぞ、セレナ殿・・・、ううぅ~~~ン、見れば見るほど可愛らしくて綺麗な女子おなごじゃ」

「だまれ、じじいぃーーーっ!」

 彼はそう言ってデュオラムスに一撃を加えようとしたが実体のない精霊王の体を素通りしてしまうだけだった。

「ホッホッホ、小僧ごときがワシに勝てるはず無かろう」

「ジャァ、その〝小僧ごとき〟に契約されたのはどこのどいつだ!」

「き・ま・ぐ・れ・じゃ」

「ウフフフフフフッ」

 騎士と精霊王、二人のやり取りを見ていたセレナは軽く握り締めたこぶしを口元に添え微笑ましく笑っていた。


†   †   †


 麗しきセレナの介護から約三週間が過ぎようとしていた。傷も完全にふさがり、二人してテーブルを囲んで朝食を取っていた時の事である。

 二人は話しながらEVの放送を眺めていた。そして、見ていた放送番組が突然、帝国放送に強制切り替えされる。

「我々帝国は現時点を持ってサイエンダストリアル共和国の支配者となった・・・・・・・・」

 その放送は開戦からわずか二週間足らずで帝国から最も遠いとされているサイエンダストリアル共和国首都、アドバストを陥落させたと言うのである。

『バンッ!』

「ばっ、馬鹿な!そんなこがあってたまるか・・・」

 彼はテーブルを両手で叩き驚いた顔付きで立ち上がった。セレナはアルエディーの行動とEVの内容を見て驚きの余りスプーンをくわえたまま硬直していた。そして、その状態で二人は暫らく帝国放送を聞き流していた。

 食事も終わって二人が平静を取り戻した頃、セレナの方からアルエディーに声をかけていた。

「アル様はこれからどうなさるお積りなのですか?」

「・・・、わからない。だけど・・・」

「旅立たれるのですか?」

「勿論だ、これ以上君には迷惑掛けられない。この街に居れば街の人間にも迷惑が掛かるだろう早々に支度して出て行くよ」

 彼の賞金首は初めの頃から比べると十倍にもなっていた。何時その賞金目当てに荒くれモノや帝国兵団が現れセレナやこの街に被害をもたらすか分からない。そう思った彼は即刻この街を出る事を決定した。

「今まで身につけていた物では目だってしまう。セレナこの街にいい旅雑貨屋と防具屋はないか?」

「ここからでしたら街の東大通の入り口とプリア通りに数件有ります。ですが、大通りの方がお店は小規模ですが品揃えが良いみたいです」

 彼女はとても淋しそうな声でそう答え、アルエディーが彼女の想い等に気付いてやれる事などなかった。

 騎士は元々自分が着ていた立派な鎧を生き物以外だったら何でも詰め込める小さな魔法の皮袋にしまい。セレナに別れと感謝の言葉を告げ、街の東大通に向かった。

 彼が厄介になった町、ファーティルの王都から南西に向かって約899※ガロット進んだ所にあるサイエンダストリアル共和国、国境付近の人口一万五千人ばかりのオーウェストと言う小さな町。ヒューン、デューン、ビトゥーが同じくらいの割合で住んでいる。アルエディーはセレナの言われた方角に進みその店を探した。始めに見つかったのは防具屋だった。彼は少しばかり警戒してその店へと入って行く。

「カッコいいお兄ちゃんいらっしゃいませぇ~~~」

 中に入るとこの場には似つかわしそうな小さな可愛らしい少年の店員が店番をしていた。

 アルは店員に挨拶すると店内に置いて有るブーツや鎧を手に取って確認していた。

 最終的にアルエディーがカウンターに持っていった物はプレートメイル、ウィングブーツ、アイシールド、それと蒼白色の外套だった。

「合計で1087※1エドルン、若しくは11※2シルバーコインだよ」

 アルエディー、財布からシルバーコインを11枚出してそれを支払った。その後その店の更衣室で素早く着替え、店員に頭を下げて出て行く。

 防具屋の隣にあった旅雑貨屋に入り、その店は名前の通り旅をするために必要な道具が売られている所でありファーティル王国、大抵の町にあるフランチャイズ雑貨屋である。そこで水、携帯食料、応急セットなど次の町まで必要だと思われる物を購入。

「有難うございました、こちらのクーポン、有効期限以内にお使い下さい」

「どうも」

※1ガロット=1・5㎞

※1、1エドルン=120円から150円

※2、1シルバーコイン=約100エドルン

 営業スマイルの店員にアルはそう言葉にして背中を向けた。

 ここまで会う人々、大抵の人がアルエディーの事を知っていた様だった。人々に顔を晒すたびに小さく驚かれはした物のセレナの言っていた事に嘘偽り無く誰も彼を帝国に通報や突き出そうとする者はいなかった。

 アルエディーが町の出口付近に近づくとそこには旅支度を整えた一人の女性が彼の事を待つ様に立っていた。

「せっ、セレナ、どうして、なぜ君がここに?」

「アル様とご一緒に旅に出ようと思いまして・・・」

「セレナ、何を言っているんだ?遊びじゃない・・・、それと俺と一緒にいたら危険だ。直ぐに帰りなさい!」

「アル様が怪我した時、私の治癒魔法で治して差し上げることができます。アル様がお腹を空かした時、私が何か作って差し上げることもできます。私がいれば色々と便利ですよ」

 彼女はニッコリと微笑みながら目の前の騎士に向かってそうはっきりと言葉にしていた。

「だから危険だって!君に何かあったら・・・、それに君を育ててくれた司祭だって心配するだろ?」

「その心配は入りません。司祭様にはお許しを貰いました。それに私が危険な時は立派な騎士様が助けてくれるでしょうから・・・・・・」

 精霊王デュオラムスが踏ん切りのつかないアルエディーの心の中に直接話しかけ、

〈オイ、小僧、セレナ殿は置いて行っても勝手についてきそうじゃ。だからお主のような小僧にはもったいないじゃろうが連れて行ってやれ〉

〈うるせえぞ、じじい、手前は唯セレナと一緒にいたいだけだろ!〉

〈ああ、そうじゃよ、わしは正直ジャからのぉー、こんな可愛い子がいつもいてくれたら嬉しいわ・・・、お前だってそうじゃろぉ~~~〉

〈グッ〉

「アル様・・・、駄目なのですか?」

〈ホォ~~~らっ、セレナ殿目に涙を浮かべ訴えておずぞぉ~~~、それに答えてやれないとは情けない男ジャの〉

〈じじい、後で覚えてろよ〉

「セレナそんな顔しないでくれ、何だか俺が悪い見たいじゃないか・・・、危険な旅になる、それでもいいのか?」

「ハイッ、大丈夫です」

 先程の翳りなど嘘の様に彼女は微笑んでそれに答えた。

〈ホッホッホ、面白い旅になりそうじゃわい〉

 かくして、千騎長アルエディーは癒しの魔法の使いて聖女セレナ共にオーウェストを旅立つ事になった。そして、アルエディーが目指す目的地とは・・・?

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