鏡の世界と時計屋

鏡の向こう側は、真っ暗だった。


そして今ー。



「落下してるんだけど!?」


ヒュュュュウ!!


暗くて周り見えないし、どうなってんの!?


「アハハー!!死なないから大丈夫だよー!!」


「何で、アンタはそんな余裕なの!?」


「アンタじゃないよ?ボクの名前はエースだよ。ACEって書いてエース。キミの名前は?」


落下しながら流暢(りゅうちょう)に、自己紹介をしている。


コイツ、頭おかしいんじゃないのか?


すると、真っ暗だった空間に、オレンジ色の光が現れた。


周りに色んな形の時計が現れた。


ボクは、1つの時計の上に着地した。


ストンッ。


改めて周りを見渡した。

 

時計や数々の扉が浮いていた。


「ねぇったら!!名前教えてよ!!」


目の前にエースと名乗る男が、時計を飛び越えなが

ら大声で叫んだ。


「うるさいな。ボクに名前はないよ。」

 

「名前がない?どうして?」


「身寄りのない子供は名前がないんだよ。皆んな、ボクの事はゼロって呼んでたけど。」


「そうなんだぁ。じゃあ、ゼロって呼ぶね!!」


「分かったよ。」


距離感がおかしいな、コイツ。


もう、普通に返事をしておこう。


「おい、エース。」


男の声が、空間中に響いた。


「何してんだ。アリスの代わりを見つけたんだろ?さっさと来ないと、扉が閉まるぞ。」


扉?


「あ!!そうだった!!ゼロ早く行こ!!」


そう言って、ボクの手を取り乗っていた時計から降りた。


ピョンッ。


ヒュュュュウ!!


再びボク達は落下した。


「さっきの声の奴は誰だよ、エース。」


「ボク達の協力者だよ!つまり仲間だよ。」


「つまり、信頼出来るって事か?」


「そう言う事!」


落ちていると、1つと開いている扉があった。


「あの扉の中に入るよ!!ボク達の世界の入り口だから!!」


吸い込まれるようにボク達は、扉の中に入った。


パタンッ!!


ボク達が入ると、勢い良く扉が閉まった。



ガチャーンッ!!


「ぐへっ!!」


「うわっ!!」


痛った…。


凄い勢いで、床にぶつかったな…。


体が痛い…。


ん?


誰だ、この足?


厚底のラバーソールが視界に入った。


「お前が、アリスの代わりか?」


上から声がしたので、見上げて見た。


金髪ベースの黒メッシュの長い髪はポニーテールにしてあって、編み込みも入っている。


金と黒のオッドアイ、キラキラ輝く沢山のピアスに、両手首には鎖のタトゥーが入っていた。


エースと同じ、パンクファッションが良く似合っていた。


「ロイド!!乱暴に引き寄せなくても、良いじゃん!!体痛いよー。」


「お前がのんびりしてたからだろ。扉が閉まったら、この世界に来れなかっただろうが。」


「ゼロの事を丁重に扱えって事!!怪我してない?」


「う、うん…。大丈夫だ。」


部屋を見渡すと、沢山の時計が壁にぶら下がっていて少し埃臭かった。


「ここは、何処なんだ?」


「俺の店だ。まぁ、ここは物置部屋だが。」


「時計屋なのか?」


「あぁ。」


通りで、時計屋が沢山あるわけだ。


「コイツはロイド、ボク達の協力者さ。それで、この子はゼロって名前だよ。」


エースが、ロイドにボクの事を紹介した。


「宜しく。」


「こちらこそ。」


差し出された手を握った。


「ロイド以外にも2人、協力者がいるから、また紹介するね。」


「2人もいるのか?」


「あぁ、アイツ等はあまり、自由に動けない立場なんでな。」


「訳ありって、事か。」


「話が早くて助かる。」


ロイドは思った以上に、話が進んだので驚いた様子だった。


「ゼロにはまず、この世界の事を知ってもらわないといけないんだ。協力者以外の人達に悟られないようにね。」


エースとロイドがこの世界の事を説明してくれた。


1、現在地のここはハートの国と呼ばれていて、ハートの女王と呼ばれる女が国を占めている事。


2、アリスを殺した容疑者が、何名かいる事。


ざっくりとした説明だが、大体は分かった。


どうやら、ボクは本当に異世界にきてしまったな。


いよいよ、本格的に犯人探しが始まるようだ。


「その容疑者達は、何人ぐらい絞れてるの?」


「7人だ。」


「7人か…。多いんだな。」


「ロイドの調査した結果だから、確実だよ。ロイドの裏の仕事は情報屋だから。」


へぇ…、以外。


この世界でも、裏の仕事をしている奴はいるのか。


チリリリッ!!!


エースが持っている時計が鳴った。


「はぁぁー、女王のお呼び出した。ボクは行くよ。ロイド、ゼロの事を宜しくね。また明日来るから!!」


そう言って、エースは窓を開けて出て行った。


「女王の呼び出し?」


「この国の女王は我が儘でな。呼びたい時に呼ぶんだ。」


「あー、面倒臭い奴ね。」


「フッ、ゼロは口が悪いのか?」


笑いながら、ボクに尋ねて来た。


「産まれが悪いからな。」


「そうか。」


「それで?ボクは、何処で生活すれば良いの?」


「ここで生活してくれて構わない。アリスが使ってた部屋を使ってもらうが、構わないか?」


「別に良いよ。」


そう言うと、ロイドはアリスの使ってた部屋に案内した。


「この部屋だ。」


ゆっくりと、薄い水色の扉を開けた。


部屋の中は、お姫様みたいにレースやフリルがあしらわれ、ぬいぐるみが沢山置かれた部屋だった。


「すっごい趣味だな…。」


「アリスは、可愛い物が好きだったからな。」


ロイドは、悲しい顔をして話した。


「明日詳しい話をするから、今日は休んでくれ。」


「分かった。」


「おやすみ。」


「おやすみ。」


そう言って、ロイドは部屋を出て行った。


ギシッ。


ボクはベットに腰掛けた。


「大切にされてたんだなアリスは。」


机の上に置かれた写真盾を取った。


写ってたのは、ボクと同じ顔をした女の子が、花畑を走ってる所だった。


「本当に似てるな、ボクに。」


笑った事のないボクは、こんな風に笑えるのだろうか…。


写真立てを持ったまま、ベットに横になった。


「これからどう、なるんだろ…。」


瞼が重たくなり、ボクはいつの間にか眠りに落ちた。


これから起こる物語が、ボク自身を変える事になる事は思いもしなかった。

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