ハートの騎士団長
肌寒さを感じて、目を開けた。
カーテンを開けて空を見ると、まだ太陽が登る前だった。
「外を見たら元の世界と、何も変わりないんだけど…。」
フランスのような、街並みが窓の外に広がっていた。
ファンタジー要素のある建物とか、生き物とかいない。
ガラッ。
窓を開け、ポケットに入っていた煙草を取り出した。
いつも起きた時に、煙草を吸うのが習慣になっている。
煙草を咥え、火を付ける。
カチッ。
「フゥ…。」
煙草を吸っている時が、一番落ち着く…。
アリスを殺した奴を、見つけないといけない。
期限は決められた訳じゃないけど、見つけられるんだろうか…。
見つけるなら、早い方が良い。
余所者は早く用事を済ませて、出て行かないと。
コンコンッ。
「ゼロ、起きてるか?」
「起きてるよ。」
「なら、入っても大丈夫か?」
「うん。」
ボクが返事をすると、ロイドが部屋に入って来た。
ガチャッ。
「こんな朝早くから、用事か?」
「煙草の途中悪いな。着替えと風呂場の場所を教えておこうと思って。それと、アリスを殺したと思われる人物の話をと…。」
「分かった。」
携帯灰皿に煙草を押し付け、ロイドに近寄った。
「案内するから、付いて来てくれ。」
「了解。」
最初はリビングを案内され、次にバスルームを案内された。
バスルームは至って普通、ファンタジー要素があるとすれば猫足バスタブくらいだ。
「着替えは、ここに置いておく。」
ドサッ。
可愛らしい箱の中に着替えを入れた。
「上がったら、リビングに来てくれ。」
「分かった。」
そう言うと、ロイドはお風呂場を出て行った。
パタンッ。
ドアが閉まった事を確認し、服を脱いだ。
パサッ。
そう言いえば、ずっと軍服を着たままだったな。
血を流しておきたかったから、風呂に入れる事は幸いだ。
キィィィ…。
バスルームに入り、シャワーを出した。
シャアアアア…。
シャワーを浴び、体の汚れを落としてから、バスタブに足を入れた。
ポチャンッ…。
湯船には小さな花が浮いていて、フレグランスの良い香りが鼻を通る。
アリスは、銃や戦争を知らずに生きて来たんだな。
ボク右腕には、No.0と書かれたタトゥーが入っている。
そして体には、古い傷が幾つもある。
アリスはわ綺麗なまま育ったんだろうなと実感する。
ボクが如何に、血で汚れて育ったかを実感させられた。
「ロイドとエースが、アリスを殺した奴を探すのも無理はないか。」
ここまで大事にしていたアリスが殺されれば、血眼になって犯人を探すよな。
ザパァ…。
バスタブを出て、タオルで髪や体を拭いま。
鏡に映った自分は、この世界のアリスとソックリだった。
「これは確かに、アリスの代わりになれそうだな。」
用意された服に手を伸ばす。
水色のワンピースには白いフリルが沢山あしらわれ、トランプのマークが刺繍。
胸元には黒いリボンが付いていた。
白いフリフリのエプロンにボーダの靴下、黒いリボンのカチューシャ。
ワンピースの丈が少し短いのが気になる。
「この服を着るのか…?凄い趣味だな…。」
気乗りしないまま服を着て、いつもの癖で太ももに銃をセットしてしまった。
カチャッ。
まぁ、念の為に良いか。
ボクはバスルームを出て、リビングに向かった。
リビングに着くと、コーヒーを淹れていたロイドと
目が合った。
一瞬、驚いた顔をしていたが、スゥッと顔が戻った。
「こうして見ると、アリスと瓜二つだな…。座ってくれ。」
「あぁ。」
テーブルには、クロワッサンとミニサラダ、目玉焼きとソーセージがお皿に乗っていた。
クロワッサンのバターの匂いと、ソーセージの香ばしい匂いが食欲をそそる。
「いつも、ロイドがご飯を作ってるのか?」
「あぁ、大体な。何でだ?」
「いや、凄いなと思って。ボクが食べて良いの
か?」
こんな豪華な朝食を、ボクが食べて良いものなのか?
「それは、ゼロのモーニングだ。食べて良いに決まっている。」
「そうか。」
そう言って軽く手を合わせ、クロワッサンを手に取った。
いつもなら合わせないが、作って貰ったロイドには礼をしないとな。
カリッ。
クロワッサンを一口齧(かじ)ると、口の中にバターと蜂蜜の味が広まった。
「…、美味しい。」
思わず、声が漏れてしまった。
「いつも、食事はどうしていたんだ?」
ロイドが、コーヒーを啜りながら尋ねて来た。
「サプリとか…。食事と言う食事はしていなかったな。だから、こうして朝食を貰えた事が初めてなんだ。」
プシッ。
フォークにソーセージを指し、口に運んだ。
ロイドは黙って、その光景を見ていた。
「何?」
「い、いやなんでもない…。アリスを殺した容疑者の話をしよう。」
コトッ。
そう言って、コーヒーカップをテーブルに置いた。
容疑者って…。
まぁ、確かに容疑者か。
ツッコミを入れたかったけど、我慢した。
ロイドの顔が真面目だったから、突っ込んだら可哀想だと思ったからだ。
「1人目は帽子屋、名前はマッドハンター。表向きは帽子屋を営んで居るが、殺し屋をしている。2人目はイモムシ、名前はインディバー。奴は煙草家をやっている。3人目は…。」
「ちょっと、待った。」
ロイドが3人目の話をするのを止めた。
「何だ?」
「その、2人目のイモムシ?は人なの?」
「え?あー、人だよ。」
「なら、良い。」
そうだ。
この世界は普通の世界じゃないから、虫の名前でも人なのか。
「じゃあ、続けるぞ?3人目は居眠りネズミ、名前はズゥー。帽子屋のお茶会メンバーで、普段は寝てばかりの奴だが、猫の名前を聞くと豹変する変な野郎だ。4人目が1番怪しい奴で三日月うさぎ、名前はマリーシャ。同じく奴のお茶会メンバーであり、帽子屋の営む殺し屋のプロだ。」
「この世界は、殺し屋が流行ってんの?」
そう言って、コーヒーに口を付けた。
「大体の奴はプロの殺し屋だ。ここの世界じゃ常識だな。」
「へぇ…。じゃあ、ロイドもエースも殺し屋なの?」
「俺達は殺し屋ではない。情報を売っている。」
「成る程、情報家な訳ね。」
この世界の連中は、頭がイカれてるって考えた方が良いな。
「5人はこの世界の女王、名前はアレヒィレス。女王はアリスの事を毛嫌いしていた。6人目と7人目は双子のディとダムだ。この双子も殺し屋だ。」
「結構人数が多いな…。この中でもっと絞れないのか?」
ボクはロイドに尋ねた。
「そうだな…。俺が特に怪しいと目を付けているのは、帽子屋と三日月うさぎ、女王だな。」
「この3人が特に怪しい訳ね。」
「そうなるな。」
3人に絞れてるだけ、マシ…か。
殺し屋が誰かに依頼され、アリスを殺した可能性もあるな。
だが、依頼したのは誰だって話になる。
殺し屋が殺した事は確定として、理由は?
プロの殺し屋なら私情ではなく、仕事として殺す筈だが…。
実際、犯人を見つけるのは簡単じゃないよな。
「名前は知れたとして、実際に見ないと、誰が誰だか分かんないな。」
ボクがそう言うと、ロイドが口を開いた。
「あぁ、それなら大丈夫だ。」
「大丈夫?」
リンゴーン、リンゴーン。
突然、チャイムの音が鳴った。
「来たか。」
ロイドはそう言って、席を立ち玄関に向かって行った。
ガチャッ。
「早かったな。」
「あぁ。アリスの代わりの奴は今、いるのか?」
「リビングに居る。」
ロイドと誰かの話し声が聞こえた。
声からして、男だろう。
2人の足音がリビングの扉で、止まった。
ガチャッ。
リビングの扉が開かれ、ボクは振り返った。
襟足の長いミルクティーアッシュの髪は、少し左に流されていて、赤い瞳の猫目。
沢山のピアス、首にはハートと棘のタトゥーが入ってて、赤と黒色の軍服を着ていた。
「っ…。」
ボクの顔を見てわ凄く驚いてた。
アリスの服を着れば、ボクとアリスは瓜二つだ。
男の顔は、凄く悲しいそうな顔をしていた。
「ゼロ、紹介する。コイツが俺等の仲間で、ハートの騎士団、名前はジャックだ。女王直属の騎士だ。」
「あぁ、ボクの名前はゼロだ。」
「…。」
反応が無い。
「おい、ジャック。しっかりしろ。」
パシッ!!
ロイドが、ジャックの肩を強く叩いた。
「っ!?あ、あぁ悪い。あまりにも、アリスと瓜二つだったから。」
「いや、気にしてないから安心しろ。」
「やっぱり、アリスじゃないんだな…。」
ボクの話し方を聞いて、少しガッカリしていた。
いや、露骨にガッカリされても困るんだが…。
「今日は、ジャックに案内して貰う予定だ。騎士と居た方が安心だろう。」
「ボク1人でも、大丈夫だけど。」
「ゼロって言ったか?アリスのフリをするんだろ?だったら、俺が居た方が話しが合うだろ。」
成る程。
ジャックの言う事に、一理あるか。
「それとゼロは軍人だ。ある程度の戦闘は、問題ないだろう。」
「そうなのか。なら、案内する。」
ロイドがボクの事を簡単に紹介してた。
説明してくれた方が助かる。
自分の事を紹介するのは、苦手だからな。
「分かった。」
ボクとジャックは、ロイドに見送られながら家を出た。
ジャックは、何も言わずに前を歩いて居た。
結構体型がガッシリしてるな。
背中が大きく、軍服の上から見ても程良く筋肉が付いてるのが分かる。
ジャックとアリスは、どう言う関係なんだろうか。
あの反応からして、恋人だったのか?
「ジャックは、アリスの恋人なのか?」
ピタッ。
ボクがそう言うと、ジャックが足を止めた。
「恋人じゃない、俺の愛した女だ。」
「恋人じゃないのに愛した?意味が分からんな。」
「お前に分かるはず無いだろ。」
ズキンッ。
胸に痛みが走った。
ん?
何だこれ…。
胸が痛い…?
「外では、あまり話さないようにしてくれ。アリスの話し方と全然違うからな。まずは、住人達を紹介する。」
そう言って、再びジャックは歩き出した。
ボクは胸の痛みを抱えながら、ジャックに付いて行った。
この時はまだ、この胸の痛みが何なのか、分からなかった。
「へぇー。なんだか、面白くなって来たなぁ。」
ゼロとジャックの事を見ている謎の人物に、ゼロ達は気付いていなかった。
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