白兎と鏡

潜入捜査当日ー


ボクとヤオは、同じヘリで屋敷に向かっていた。


「ヘマすんなよ、ゼロ。」


ニヤニヤと笑いながら、ボクに話し掛けて来た。


「それボクに言ってんの?」


「俺の目の前にお前しか居ないだろ。」


「ふーん。寝言は寝て言うんだぞ、ヤオ。」


「寝てないわ!」


ボクに話し掛けて来るのは、ヤオぐらいだ。


周りに居る連中が、ヤオを引いた目で見ている。


ボクの事を好む奴の方が、おかしいんだから。


ヘリの中に居るのはらザッと数えて20人。


後から応援が来る予定だ。


隊長の人選で、20人と厳選された。


今回の任務は、屋敷内の調査。


屋敷の地下に兵器が眠っているらしく、その調査だそうだ。


軍人と言うのは、兵器やら武器やら爆弾を好むようだ。


国を守るのが軍人の仕事と良く言うが、ボクはそうは思わない。


国民の金を私利私欲に使い、肝心な時には役に立たない。


これが軍人の実態だ。


訓練をしていても、いざと言う時は簡単に死ぬ。


何の為の訓練だ。


何の為の軍事だ。


何の為の国家権力だ。


今の任務だって、何の役に立つ。


兵器が欲しいだけで、軍隊を動かしてるだけじゃないのか。


あー、煙草吸いたい。


吸ってこれば良かった。 


ジジッ。


そんな事を考えていると、無線が鳴った。


「30秒で上陸する。各自戦闘準備。」


無線から指示が届いた。


ボク達はすぐに、戦闘準備を行った。


カチャッ、カチャッ、カチャッ。


銃弾にショットガンにアサルトライフルを肩に掛

け、太ももに巻かれた袋にナイフを入れた。


目の前に居るヤオに視線を向けた。


さっきまでのヤオとは、違った。


顔付きが変わって居た。


ヤオも、この部隊でかなりの戦力になっている。


「間もなく目的地に着陸する。各自着陸準備を。」


ボク達は着陸準備を完了させ、ヘリのドアを開いた。


バンッ!!


「着陸地に到着!!5.4.3.2.1...。GO!!」


バッ!!!


ボク達はヘリから降りパラシュート開き地面に着陸した。


タッ!!


屋敷から約300mの距離だった。


ダダダダッ!!


ボク達は、屋敷に向かって走った。


屋敷に着くと、セキュリティーは頑丈で、門には敵の軍隊が居た。


ヤオが指示を受け、門にいた軍人をナイフで首元を切り裂いた。


素早い動きで、次々に軍人達の首元を切る。


ブシャッ、ブシャッ!!


幸い門には数人にしか居らず、敵の軍隊にバレずに

屋敷内に入れた。


屋敷に入ると各自1人行動をし、屋敷内を探索し始めていた。

 

ボクも銃を構え部屋を探索した。


ここも特に無し…か。


外装からして、かなりの金持ちが所有しているようだ。


部屋の中の家具とかもかなり高級品だ。


これぞ優雅な暮らしと言うヤツだ。


家具に埃が溜まっていないし、生活している跡がある。


誰か居るのは間違いないだろう。


だが、どこにも屋敷の人間はいなかった。

 

出掛けているのか?


それにしても、使用人が1人もいないのはおかしい。


ふと、赤い扉が目に入った。


何で、ここだけ赤いんだ?


ボクは恐る恐るドアノブに手を伸ばし、扉を開けた。


キィィィ…。


さっきまで見て来た部屋とは違った。


ファンシーな家具達に、天井からウサギや星などがぶら下がっていた。


子供部屋か?


この屋敷に住んでる子供の部屋か。


そして、1番目立っているのが大きな鏡だ。


何故か分からないけど、鏡に呼ばれて居る気がした。


ボクは鏡に近付いた。


ピタッ…。


そっと、鏡に触れてみた。


冷たい感触が手のひらに広がった。


至って、普通の鏡だった。


だけど、どうして…。


こんなに気になるんだろう。

 

ジッと鏡を見ていると、鏡に写っているボクの口が開いた。


「ボクを殺したのは誰?」


「え?」


ボクを殺した?


鏡の向こうのボクが、どんどん血で赤く染まって行く。


真っ赤な血が鏡のの中で飛び散り、体がバラバラに切断されて行く。


ズシャッ、ズシャッ、ズシャッ、ズシャッ。


何がどうなってる?


鏡に映ったボクが喋った?

 

鏡の中のボクが殺された?


目の前で起きた事は、現実なのか?


有り得ない。


鏡の向こうのボクが喋る事なんてない。


寧ろ、鏡の中が動くなんて…。

 

ユラユラッ。


すると、鏡の中が歪み白い手が伸びて来て来た。

 

「!?」


ボクは素早く下がり銃を構えた。


カチャッ。


「よいっしょ…。やっと繋がった!!」

 

出て来たのは、うさ耳の男だった。


ツンツンとした白い髪に沢山のピアスが付いたうさ耳、真っ赤な瞳に、パンクファッションを身に纏い大きな時計を首から下げていた。


な、なにコイツ…?


男がこちらを振り返り近付いて来た。


「見つけた。アリスの代わり!!」


カチャッ。


銃を突き付けてるのに何故、普通に喋ってるの?


それに、アリスの代わりって…。


「あ、銃を突き付けるのやめてよね。ボクは君にお願いがあって来たんだ。」


「お願い?」

 

カチャッ!!


扉が開き現れたのは、敵の軍人達だった。

 

「侵入者だ!排除する!!」


そう言って、銃を構えた。


まずい、撃たれる?!


ボクは慌てて、銃を向けようとした。


ブジャァァァァ!!


軍人達の首から血が噴き出した。


「ボクが話してる時に、邪魔しないでよね。」


うさ耳の男の方を見ると、手にはトランプカードが

握られていた。


良く見ると、カードにはベットリと血が付いていた。


まさか、コイツがこのカードで殺したの?


パラパラパラパラパラパラ。


男は、手慣れたようにカードをシャッフルしていた。


「今のアンタがやったの?」

 

「ん?あー、そうだよ♪これで。ボクの話を聞いてくれる?」


下手に動かない方が良さそうだな。


「あぁ、わかった。話を聞くよ。」


「良かったぁ!!ボクはキミに、アリスを殺した奴を殺して欲しいんだ。」


「アリス?アリスって、童話かなんかに出て来るアリスの事か?」


「まぁ、簡単に言うとそうだね。ボクは、鏡の向こうの世界の住人なんだ。アリスが何者かに殺された。それは壊れた人形のように、バラバラにされてた。」

 

なんとも、信じられない話だ。


だが、ふと鏡で見た映像を思い出した。


あながち、この男が言ってる事は本当なのかもしれない。


ボクはポケットから煙草を取り出し、口に咥え火を付けた。


「それで、ボクとなんの関係があるの。アリスとボクは関係無い筈だが…。」


「アリスとキミは深い繋がりがある。だから、この世界に繋がったんだ。」


「繋がり?ボクとアリスが?」


「ボクはアリスの殺した奴を殺したい。誰がボクのアリスを殺したのか知りたい。その為には、アリスが死んで無かった事にする必要がある。」


「必要?」


「犯人を動揺させる事が目的。そこから犯人を炙り出し殺す。」


成る程…。


大体の話が分かった。


まとめるとこうだ。


1、アリスは何者かに殺されバラバラにされた。


2、その犯人を探す為にアリスは死んでなかったと思わせ、ボロを出した犯人を殺すって事か。

 

「お願い!キミの力が必要なんだ!」


そう言って、うさ耳男が頭を下げた。


この世界に未練なんてないし、悲しむ人間なんて居ないだろう。


コイツの話に乗って、どうなったとしても…。


ボクはどうでも良いと思うだろうな。


アリスを殺した犯人を殺せば終わりな話。


こっちの世界に戻れない訳じゃないし。


「まぁ、別に良いよ。」


「本当!?」


「あぁ、殺したらこっちの世界に返してくれんだろ?」

 

「それは勿論!キミの望むようにするよ!」


「なら、良い。」


ボクは、煙草を携帯灰皿に押し付けた。


「さぁ行こう!!」


そう言って、うさ耳男はボクの手を掴み鏡に入った。


カチャッ。


「おーいゼロ。どこに居るん…え?」


探索中のヤオは赤い扉を開け部屋の状態に驚いた。


敵の軍人達の死体が転がって居た事に。


そして、大きな鏡が歪んでいた事にも。


ヤオは大きな鏡に近付いた。


「どこに行ったんだよゼロ…。」


そして、ゼロは朝になっても現れなかった。

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