第1章 鏡の世界で
chord name ZERO
この世界で、平等なものなんて無い。
人ですら、平等ではないのだから…。
そう思ったのは、ボクが物心付いた時だった。
ドドドドドドドッ。
耳障りのヘリコプターの飛行音が、夜空に響かせていた。
「コード:ゼロ聞こえるか?」
ジジッ。
耳に嵌められた無線から、ボクの呼ぶ声がする。
ボクの名前はコード:ゼロ。
思い銃器をぶら下げ、迷彩柄の軍服を着て、いつものように仕事をする。
名前が無い為そう呼ばれている。
身寄りも無く、名前すらも無い、せめてもの救いは、この見た目だけだ。
シルバーアッシュの髪はパーマが当てられ、腰までの長さで色白な肌に青い瞳。
この容姿の所為で、酷い目に遭った事は無かった。
それが、良かった事だとは思っていない。
男の嫌らしい視線を常に感じ、居心地の良い物では無かった。
「聞こえている。」
「間も無く着陸する、戦闘準備を。」
「了解。」
ブツッ!!
バンッ!!
無線が切れ、ヘリのドアが開いた。
暴風がボクを包む。
ブォォォォォォォ!!
「間も無く上陸致します!!!5、4、3、2…。」
ボクは、銃を取り体に巻き付いた銃弾を確認し、飛び降りる準備をした。
「1、GO!!」
掛け声と共に、ボクはヘリから飛び降りた。
トンッ。
落下しながら、周囲の様子を確認する。
数はザッと、80人…か?
多分、実際はそれよりも少し多いだろうが…。
まぁ、どうでも良いけど。
カチャッ。
ボクは着陸準備をしながら、周囲を確認し着地をした。
スタッ。
地面に罠は無いな、ビル周辺に数人の敵兵が銃を持って歩いている。
ジジッ。
「ゼロ、ターゲットはこのビルの中に居る。周囲のSPに軍隊を含め、およそ150人。我々も突入するが、半分程数を減らして欲しい。」
「了解、終わり次第連絡を入れる。」
「了解。」
ジジッ。
半分って…、普通の人間だったら無理ですよ隊長。
無理な要求を平気でしてくるな。
「さっさと終わらせるか。」
スッ。
ナイフを取り出し、後ろから敵兵の1人の首元を掻き切った。
ブシャッ。
ドサッ!!
前を歩いていた敵兵に気付かれないよう、後ろから口を押さえ、首元を切る。
ブシャッ。
気配を消し、次々とビル周辺にいる兵士達を切る。
粗方、片付いた所でナイフをしまい、ショットガンに切り替える。
カチャッ。
ショットガンに弾をセットして、ボクはビル内に入った。
足音を立てず、いかに気配を消せるかが鍵だ。
ビルの中は静かで、兵士の足音だけが聞こえて来る。
足音で、何処にいるか分かる。
探索をしていると、兵士達が数人で固まり歩いていた。
「TARGET。」
ボクはそう呟いて、ショットガンを構え、1番後ろを歩いて男にヘッドショットをした。
パシュッ!!
防弾仕様の為、銃弾を放っても音は出ない。
ヘッドショットした男が倒れる前に、2人にもヘッ
ドショットをした。
パシュッ、パシュッ!!
ドサッ、ドサッ。
カチャッ、カチャッ。
弾を補充し、再び周りを歩く。
ボクは産まれた時から、1人だった。
赤ん坊の時に教会に捨てられ、お金の無い子供は食べる事さえ、許されなかった。
取られる前に取る、殺される前に殺す。
やられたらやり返す。
この世は逆肉強食、弱い者は死んで行く。
全く、その通りだと思った。
少しでも、お腹を満たしたくて盗みをしていた。
そしたら、ギャングの仲間に誘われ、ボクは教会を出た。
人を殺す事に何も感じなかった。
好き、嫌い、怖い、とか、そう言う事を思った事がなかった。
感情がなんなのか、分からなかった。
淡々と人を殺して居たら、今の隊長にスカウトされ軍隊に入った。
ボクは、人よりも優れて居た為、あらゆる戦場に連れて行かれた。
そこでは、生と死の世界で互いの命を掛けて戦っていた。
恐怖に満ちた表情や殺意に満ちた表情があった。
そんな表情を見ても、何も感じなかった。
だから、平気で殺せた。
人は簡単に死ぬんだな。
今思えば、人に興味がなかったんだろう。
だって今も、こうして1人で戦場に立って居るんだから。
血生臭い空間に、いつもボクだけが居た。
「ギャアアアアア!」
「このガキ!!」
銃弾はボクに当たる事はなく、ナイフで男の首を切った。
溢れ出す血を見ても何と思わない。
死体を見ても同じ事。
自分の生死さえも、どうでも良かった。
いつ死んでも良かった。
どれだけ時間は経ったか…?
まだ、20分くらいしか経ってないのか。
近くにあった時計を見て、時間を確認する。
半分以上は減らせたか。
ボクは、無線を耳に当て報告をした。
隊長の声と共に自分達の部隊が突入し、無事にター
ゲットを捕獲出来た。
軍隊本拠地ー
本拠地に戻ったボクは、隊長の部屋を訪れ任務の報告をしていた。
「ご苦労であった、今日はもう下がっていい。」
「失礼します。」
部屋を出ると、同じギャング出身のヤオが立って居た。
短髪の黒髪で、少し焼けた肌に黒い瞳、体中には古傷があった。
軍隊の中でわボクと同じ18歳だ。
「お疲れー、コレ行かね?」
そう言って、ヤオは煙草を吸うジェスチャーをして来た。
「良いよ、それで待ってたのか。」
「そう言う訳じゃねぇけど…。ゼロ、今日は大活躍だったみてぇだし?」
「あぁ、いつもの事だろ?」
「いつもの事って…。お前はもっと、自分自身を大事にしろよ?一応女なんだから。」
そんな話をしながら、ボク達は外に向かってた。
「おい、見ろよ。ゼロの奴、今日も血塗れだぜ。」
「女のくせに、男と同じ戦場に立つなんて…。女じゃねーよ。」
「平気な顔して殺してんだ。あれは人間じゃねーよ。」
兵士達はボクの姿を見て、小声で話し出した。
軍服にはベットリと赤い血が付いていて、無愛想な態度を見て、気味悪がってる。
普通の反応だろうな、これが。
ヤオは周囲を睨み付けると、話し声が無くなった。
外に出たボク達は、壁に寄り掛かり、それぞれの吸っている煙草を取り出した。
「アイツ等、勝手な事ばっかり言いやがって。」
カチッ。
そう言って、ヤオは口に咥えた煙草に火を付けた。
僕も煙草を取り出し口に咥え、火を付ける。
カチッ。
「アイツ等?」
「小声でゼロの事を言ってた奴等。アイツ等、ゼロが隊長に気に入られてんのが、嫌なんだろうな。」
「あー、僻み?ってヤツか。他人にどう思われてるかなんて、どうでも良いな。」
スゥッと煙を吸い込み、ゆっくりと煙を吐いた。
「隊長もゼロに殆どの任務任せてるからな。次の任務もかなりデカイだろ?」
「あぁ、屋敷の潜入捜査のヤツか。ヤオを駆り出されたんだろ?」
「まぁな、俺達も出されるって事は、かなり危ないヤツだろうよ。」
ヤオはボクの事を高く買ってるが、ヤオだってかな
りの実力を持ってる。
「ヤオだって、隊長に実力を認められてるだろ?あまりボクの事を買い被るな。」
グリッ。
そう言って、地面に煙草を押し付けた。
「チームに居た時だって、お前の右腕だったろ?近くで見てたんだ。ゼロは強いよ、この辺の奴等だったら絶対勝てない。」
「へぇ…。ヤオがそんな事思ってたなんて、知らなかったな、意外。」
「意外って何だよ!俺だって色々考えるわ!」
ヤオが、ボクを叩こうとして来た。
スッと軽く交わし、ヤオの頭を叩いた。
ペシッ。
「痛!!」
「それじゃあ、ボクは部屋に戻るから。お疲れ。」
そう言って、ボクはその場を後にし自分の部屋に戻
った。
ガチャッ。
部屋に戻り、ベットに倒れ込んだ。
ヤオの言葉を聞いても、何も感じなかった。
ボクは変なんだと思う事はある。
だけど、それすらも考えないようにしてた。
「眠い。」
ボクはそのまま眠りに付いた。
「アリス待っててね。絶対見つけて見せるから。」
ぴょんぴょんっとウサ耳が揺れる。
沢山の時計の上を飛んで駆け回る。
キラリと輝く1つの時計の針がー。
カチッ。
動き出した。
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