第60話 両我と柩

 五奇いつき空飛あきひ両我りょうがひつぎの四人は逃げ出した人造妖魔じんぞうようまのうち、二体の気配を同時に感じ取った。五奇いつきが口を開くより先に、両我りょうがが薄く笑い告げる。


「ふっ、妖魔ようまは二体か! この程度、わたし退魔術式たいまじゅつしきおにどもで十分だ!」


「あら、そう? じゃあ見学させてもらうわ。どうせ勝てっこないでしょうけど」


 ひつぎの言葉を両我りょうがは鼻で笑う。


「いいだろう! 次期当主の力を見せてやる! 来い! 雷狼応鬼らいろうのおうき氷狼轟鬼ひろうのごうき!」


 両我りょうがが、二体の緑と青の角が生えたよろいまとった、二メートルはあるおにを呼び出した。


等依とうい先輩の火雀応鬼かがらのおうき氷鶫轟鬼ひとうのごうきに似ている!?」


 驚く五奇いつきに、ひつぎ抑揚よくようのない声で教えてくれた。


「あら? 蒼主院そうじゅいん代々だいだい二体のおにと契約を交わすものよ? そうやって、式神しきがみの力と退魔術式たいまじゅつしきを扱うのがあの一族よ。興味ないけれどね」


 最後にそう付け加えると、ひつぎは敵が来ない範囲に陣取り、座ってしまう。本当に、見学するつもりのようだ。


「えっ? あの、ひつぎさん? 本当によろしいのでございましょうか?」


 空飛あきひがおそるおそるけばひつぎが頷く。


「好きにさせればいいのよ。あれだけ大口おおぐちを叩いたのだもの、見ものだわ」


 冷たく言い放つと、五奇いつき空飛あきひに向けて手招きをする。


「あなた達もこっちに。攻撃に巻き込まれたら、面倒よ? 両我りょうがの使う術式じゅつしきは特にね」


「それはどういう……ってうわっ!?」


「あひゃあ!?」


 突然の浮遊ふゆう感に、五奇いつき空飛あきひが声を上げ振りむけば、そこには半透明な黒いおにがいた。


「ワタシのおに無偶羅将鬼むぐうらしょうきよ。よろしくね?」


 無偶羅将鬼むぐうらしょうきによって、そのままひつぎのもとへと連れていかれた二人は、強引に座らせられてしまう。


「さ、始まるわよ。どうなるのかしらね? ふふふ」


 一方、準備万端といった様子の両我りょうがは、二体のおにを連れて取っ組みあっている鳥型と蛇型の人造妖魔達じんぞうようまに近づくと、いつの間にやら手にしていた折り畳み式の警棒を取り出した。


「さて、ショーの始まりだ! 食らうがいい! 封呪文ふうじゅもん解放! みず退魔術式たいまじゅつしき! 壱銘いめい霧の誘惑きりのゆうわく!」


 気付けば人造妖魔じんぞうようま達の周囲に、きりが発生し包み込んでいた。


「はははは! さぁ、幻覚の中で踊るがいい! いや、遊んでいては良くないな! 雷狼らいろう氷狼ひろう! やれ!」


 幻覚を見ているからか、動きが奇妙になっている人造妖魔じんぞうようま達を相手に、二体のおにこぶしを振るっていく。一方的な暴力に、五奇いつきが不快さで思わず顔をしかめると、横でひつぎが声をかけてきた。


「……本当にあなた、乙女おとめが言う通りの人なのね? ちょっと興味がわいてきたけれど……それこそ、乙女おとめに悪いわね」


 意味深な発言をした後、ひつぎ両我りょうがゆびさした。


「あんなに余裕そうだけれど、そろそろやばそうよ? 人造妖魔じんぞうようまって、らしいから」


「えっ? それってどういう……?」


 五奇いつきけば、答えはすぐに現象として現れた。一方的にやられるだけだった人造妖魔じんぞうようま達が合体したのだ。


「なに!? まぁいい! おい、おにども! やれ!」


 先程までと同様に、人造妖魔じんぞうようまに向かって行く二体のおに達だったが、物凄いかぜに吹き飛ばされてしまった。その様子を確認すると、ひつぎがゆっくりと砂埃すなぼこりをはたいて立ち上がった。


「そろそろ行きましょうか」


 その声はどこかはずんでいた。

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