第11話 続、各々の力と

「行くっスよ~火雀応鬼かがらのおうき氷鶫轟鬼ひとうのごうき、かもーん!」


 等依とういが両手を広げてそう言った瞬間、二メートル以上の、一体は赤、もう一体は青の、角が生えたよろいまとった"おに"が現れた。


(すっご! なんだあれ!? 妖魔ようま……だよな?)


 五奇いつきがそんなことを考えている間にも、等依とういとそのおに達に向かってターゲットが飛んでいく。


「サクっとバシっと、よろしくちゃーん!」


 相変わらずのテンションだが、等依とういの声色は真剣だった。赤の火雀応鬼かがらのおうきが先陣を切り、向かってきたターゲットを次々と破壊していく。その攻撃から漏れた分のターゲットを青の氷鶫轟鬼ひとうのごうきがしとめる。完璧な連携だった。


「すっご……。あんなに強いのに、なんで……」


 思わず五奇いつきが呟くと、聞こえていたらしい齋藤が口を開いた。


「それは本人にくべきだな。……もういいだろう! やめい!」


 ターゲットの射出しゃしゅつが止まり、等依とういは息をいた。


「疲れたっス~火雀かがら氷鶫ひとう。戻っていーっスよ!」


 二体のおには静かに透明になって姿を消し、等依とういが戻ってきた。


「次は夜明空飛よあけあきひ、貴様だ!」


 指名された空飛あきひが、前に出て丁寧にお辞儀をした。


「よろしくお願いいたします。……その、お二人方よりも派手さもなにもございませんが……なにとぞ、ご理解ください」


 空飛あきひ二対についの短刀を構えたのを確認した齋藤が、右手をあげた。


「ターゲット、射出しゃしゅつ! 始め!」


 空飛あきひは軽快かつリズミカルな動きで、飛んでくるターゲットを次々と斬りはらっていく。


「はっ! はぁっ!! たぁ!!」


 確かに五奇いつき等依とういのような派手さはないが、動きの一つ一つが丁寧で舞いのようだった。


(なんでこれでEチームなんだろう?)


 五奇いつきが首をかしげていると、タイミングよく等依とういが口を開く。


空飛あきひちゃん激つよじゃ~ん! なしてEチームなんスか?」


 それを聞いた齋藤が呆れた声を出した。


「貴様ら……少しは互いに関心を持て! 全く! もういい。やめい!」


 ターゲットの射出しゃしゅつが止まり、空飛あきひが短刀をしまい、再度お辞儀をして下がった。


「最後は貴様だ。鬼神乙女おにがみおとめ、前へ出ろ」


「……ちっ」


 舌打ちをしながら前に出た鬼神おにがみを見て齋藤が右手をあげる。


「ターゲット、射出しゃしゅつ!」


 ターゲットが放たれた。だが……。


「あっり~? 鬼神おにがみちゃん攻撃体勢になってなくねースか?」


 等依とういの言う通り、鬼神おにがみは攻撃体勢に入っておらず、ただ立ち尽くしているだけだった。三人で首をかしげていると齋藤が叫ぶ。


「どうした? そのままでは実戦で確実に死ぬぞ!」


「るっせぇ! こっちだって好きで攻撃してねぇんじゃねぇんだよ! クソが! 百戦獄鬼ひゃくせんごくき! 百鬼びゃっき! 出て来いってんだよ! おい!」


 しかしなにも起こらず、ターゲットは無情にも鬼神おにがみめがけて飛んでいき光線を放つ。

 彼女はけ続けるしかなく、あっという間に時間が経ち、とうとう"百戦獄鬼ひゃくせんごくき"は現れないままだった。

 しばらくして、齋藤によりターゲットが止められた。


「……んだよ。なんか言えや!!」


 乱暴に吐き捨てながら戻ってきた鬼神おにがみに対し、五奇いつき達がなにも言えずにいると、齋藤からこう言われた。


「貴様らで話し合え。いや、じっくりと互いを知れ! では部屋に戻るぞ!」


 ****


 部屋へ戻った四人は、齋藤から言われた通りに互いの話をすることにした。「部屋の外で待っている」と、言い残し齋藤が出たのを確認して、等依とういが口を開いた。


「じゃあオレちゃんからね~? オレちゃんは~式神しきがみしか使えないっス! で、何が問題かってーと。五奇いつきちゃんが使ってる退魔術式たいまじゅつしきね? アレ、大元おおもと蒼主院そうじゅいん


「えっ!? そ、そうなのか!?」


 思わず敬語がはずれ、驚く五奇いつき等依とういうなずきながら話を続ける。


「そーなんスよ~! なんで、オレちゃん、本来な~らそれも使えないと、いっぱしの退魔師たいましになれねーのね? だからEチームなわけ! オーケー?」


「お、おーけーって言われても……」


 動揺しすぎて言葉がうまく出てこない五奇いつきに対し、どこか誤魔化すように等依とういが次をうながした。


「ま、そーゆーことで……つっぎの人ー!」


 それを受けて、空飛あきひが手をあげる。


「では、次は僕の話を聞いていただけますでしょうか?」


「おーけーっスよ! 空飛あきひちゃんよっろ~!」


「あ、えっと。うん、空飛あきひ君よろしくです」


 等依とうい五奇いつきが答えると、彼はお辞儀をし話始めた。


「僕は"半妖はんよう"なのでございますが、高位妖魔こういようま"黒曜こくよう"の転生体でございまして。その、しんの力を発揮するには"黒曜こくよう"の力を宿さなければならないのでございます。ですが、黒曜こくようの力は人の身に宿すにはあまりに強大でして……。お恥ずかしい限りなのですが、黒曜こくようの力を解放してしまいますと、人格が黒曜こくように寄ってしまい制御出来なくなるのでございます。はい」


「えと、それってつまーり、暴走しちゃうってことっスか?」


「物凄く簡単に申し上げれば、そう言うことでございます」


「なんか……意外ですね。空飛あきひ君、そういう風に見えないのに……もしかして、制御できないのが理由で?」


 五奇いつきけば、空飛あきひから小さく「はい」と返ってきた。その様子を見て、先程からずっと黙っていた鬼神おにがみがどこか含んだ声を出した。


「てめぇらは……俺様なんかよりマシってことかよ……ちっ! クソが! 俺様は、百戦獄鬼ひゃくせんごくきの力を……笑いたきゃ笑えや!!」


 そう言った彼女の声は、震えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る