第70話_ユージンの奮闘

フーによって、強い下降気流が巻き起こる。

その気流が地面に衝突し、あらゆる方向に強風をもたらした。

爆風で俺は目を閉じたが、俺が縛りつけられた柱もビリビリと鳴って傾くのを感じる。

局地的な激しい風に耐えきった俺たちの前には、無様に地面に叩きつけられたドラゴンが伏していた。


「やったぜ!!」


「ざまぁみろ!」


ワァッと沸く一同だったが、カルロスが一喝する。


「まだだ!

奴が動かないうちに次の準備だ!」


彼の言葉が発端となり、各自がテキパキと仕事をこなす。

傾いている俺の柱は地面から抜かれ、俺ごと横倒しにされる。

柱を支えていた一人の冒険者が動きを止める。

その怯えた瞳が捉えるのは、目を覚まして体を起こす巨躯きょくだった。

それは不快な感情を俺たちにぶつけるように怒号する。

耳をつんざくような咆哮ほうこうではあったが、これも作戦のうちだった。


「ソラ、見たか!?」


俺はすでに風をまとった状態で、そばに立つソラに尋ねる。

ソラは、いつの間にか着替えを済ませていた。

外から影響を受けづらい宇宙服に似た格好をしている。

これから起こる事態から身を守るために用意されたのだろう。

彼は俺の腕をジャンプしながら、返事する。


「見た!」


俺の頭上にある銅製の棒に到着した彼は、俺に一声かける。


「兄ちゃん! 飛ぶよ!」


暗転。

頭が揺れる。

だが、意識がはっきりしてもまだ暗闇。


「おーい、ソラいるか?」


ソラの返事はなく、すでに弟は元の場所に戻ったようだった。

この場には俺一人。

ゴクリという音が響き、はりつけにされた俺は筒の中を絞られて下って行く。

たどり着く先を俺は知っている。


ドボンッ!!


到着した。

ここが俺の目的地。

胃だ。

きっと今頃、冒険者たちが腹の異物に苦しむドラゴンに集中攻撃をしているだろう。

こいつを倒した後に眠らせて、俺を救出してもらう予定なのだ。

それまで俺はひたすら胃に待機。

フーの風に守られているとは言え、尻から出る前には助け出してほしい。


ゴボッ! ゴボボッ!


いきなり周囲が活発に動き出す。

きっと攻撃が効いているんだ……とは、思わなかった。

この胃の収縮は間違いない。


「待て! 吐くな!!」


俺の望みは叶うことなく、俺は胃液や内容物と共に胃から押し出される。


ゲボッ……オボロロロロ……ビチャビチャビチャ……


俺は今、ドラゴンの吐瀉物としゃぶつに囲まれている。

幸いなことに風のおかげで俺自身は無事ではあるが、辺り一帯は悪臭が立ち込めている。

だが生け捕りにすべき標的は、吐き戻してフラフラしている。

今こそ勝機だ!

そう感じた俺は冒険者たちの姿を探す。


「あ……」


俺はゲロの中にいる俺に向けられた冒険者たちの冷たい視線に気付く。

彼らは、完全に引いている。

ドン引きだ。


「ソラ! あそこに飛んで!」


俺の周囲にあった汚物が、風で押し退けられる。


「フー! 任せて!」


汚れていない地面にソラが降り立ち、俺の柱上部へ。


「兄ちゃん、もう一回行くよ!」


ここに仕事を忘れていない者が二名。

俺の妹と弟だ。

これすなわち、俺がドラゴンの体内に戻ることを意味していた。


「え! いや、ちょっと!」


俺が止めたところで、仕事にひたむきに取り組む我が弟には関係なかった。

暗転し、グニャリと揺れる。

転移先はもちろん喉の奥だ。

今回は飲み込まれることはなかったが、ドラゴンがひどく嘔吐えずく。

奴は一度吐き戻していたので、胃の入り口が緩くなっていた。

俺はまたもや胃液などに押し流され、外へ出る。


オェッエッ……グェッ……ビチャビチャビチャ……


仕事熱心な家族のおかげで、それが複数回続いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る