第69話_作戦開始

一両到着してはまた一両やって来る。

そんな繰り返しで、広大な荒野の一角に運転席のない車が窮屈そうにつらなっていた。

五十台ほどはいるだろうか。

寝そべる俺は横目で車から降りる冒険者たちを眺める。

どんどん降りて来るのだが、明らかに定員オーバーな人数が乗車している。


「んん!?

なぁ、乗ってる人数多くないか!?」


「オレが中を広げたんだ!」


俺を見下ろすソラが得意満面の表情を浮かべる。

ときどき俺を置いて出掛けていると思ったが、こういう準備をしていたのかと俺は初めて知る。


「どのくらい乗れるんだ?」


「十人くらいかな!」


ソラは指折り数えて答える。

一台に十人乗っていると計算して、五百人も冒険者が集まっていることになる!

よく短期間で人数も馬車も集められたもんだとオハナの手腕に感心するが、作戦に関してだけは納得がいかない。


「もうちょい何かあったろ……」


俺の不満は、再度俺を担ぐために近寄った冒険者の足音にかき消された。

はりつけになった俺を掲げる集団は、荒々しい岩肌が露出した僻地へきちを行く。

ふとオハナが俺に話しかける。


「ユージン、もうすぐ出番ですよ。

ドラゴンは、毎日これぐらい時間にこの周辺の上空を滑空しているそうです。

では、我々はあちらの岩陰でドラゴンが現れるまで待機しています」


オハナの話す通りに進軍する隊は二手に分かれる。

俺、子供たち、冒険者数名以外は、岩陰の安全な場所に身を隠す。

周りに遮る物が何もない場所まで着くと、冒険者たちが地面に俺がはりつけになった柱を突き刺した。

ここが目印ですよとでも言うくらい俺は目立っている。

俺の背後にはソラとフーが居る。

また二人を守るために配置された冒険者も数名控えている。

その中にカルロスも混じっていた。


「神の御子様、俺たちが居る限り安全ですから!」


カルロスの堂々たる宣言に他の冒険者からは賛辞が贈られる。


「カルロスさんがリーダーなら安心ですね!

虎のクリーチャーを倒した時からすごい冒険者だと思っていました!」


一人の冒険者がカルロスの功績に言及した途端に、我も我もとカルロスの偉業を語り出す冒険者たち。


「巨大アリの大群が押し寄せた時だってすごかったぜ!」


「あの時の獅子奮迅の活躍しびれたー!」


「わたしは、この前の燃え盛る店に飛び込む雄姿が忘れられない!」


「わかる! 店員を助け出した姿! あれは惚れる!」


冒険者たちは異口同音にカルロスを褒め称えるが、本人は照れつつも謙虚さを忘れない。


「ありがとうな!

でも犠牲があったことは、忘れてはいけない」


『犠牲』という言葉が今の俺に向けられているような気がしたが、彼らの表情はうかがい知れないので気のせいということにしておく。

……しておこうと思ったのに、俺の背後で待機する冒険者が俺に対する本心を暴露する。


「カルロスさんが賢者様の従者になれないのはオカシイですよ。

なのに、たまたま神の御子様を任された奴が賢者様に召し上げられるなんて……」


「賢者様にもお考えがあるのだろう」


カルロスも不平を漏らした冒険者の意見を否定はしなかった。

この会話によって暴かれたのは、俺は冒険者に相当嫌われているということ。

オハナも似たような感情を持っているのかもしれない。

なぜ俺に厳しい作戦なのかが、ようやく腑に落ちた。

その時、地の底から湧き上がるような低い唸り声が俺たちの耳に入る。

まだ距離があると思ったのも束の間、俺の後方で冒険者が大声を張り上げる。


「ドラゴンだ!!」


烈火のごとく赤いうろこの空飛ぶ獣が、猛烈な勢いで上空に現れた。

カルロスが場を取り仕切り、子供たちに合図を発した。


「神の御子様! お願いします!」


「……っ! はい!」


ドラゴンに気を取られていたと思われるフーが、少し遅れて返事をする。

俺たちを愚弄ぐろうするかのように攻撃の届かない高度を保つドラゴン。

しかし、それはフーが風を発動するまでだった。


「ダウンバースト!!」


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