第67話_作戦立案

妖狐さんが発した『次期組合長』を聞いてからオハナは、生き生きと活動し始めた……らしい。

なぜ人から伝え聞いたような言い方をしているかって?

それは、俺がのけ者にされているからだ。


「なぁ、オハナさんに呼ばれたんだよな?

一体どんな作戦なんだ?」


俺に質問された子供たちは、明らかに気まずそうな顔をする。


「言えない」


素直に伝えられないと表明するソラ。

俺を気の毒に思ったフーは、申し訳なさがにじみ出た顔で謝る。


「ごめんね。

準備ができたら教えてくれるって」


俺がキーパーソンのはずだが、なぜ教えてもらえないのか。

不服に思うが、幼い子に当たるわけにはいかない。


「わかったよ。

じゃあ、俺にできることあるか?」


今度は一転、笑顔になる子供たち。


「一緒に練習しよ!」


俺は中庭で二人の練習とやらに付き合う。

まずはフーが俺の全身に風をまとわせる。

この状態では誰も触れないのを確認したソラとフーは、俺に手のひらを上に向けるよう指示する。

上を向けた手のひらに、フーがそぉっと本を置く。

本は風に吹っ飛ばされることなく、絶妙なバランスで俺の手の上で浮いている。


「いいよ! ソラ!」


「兄ちゃん、動かないでね!」


フーが合図を出し、ソラが浮く本に注意深く指を触れる。

それから、彼は瞬間移動する。

ただし一緒に移動したのは、本だけだった。

俺はその場に残った。


「あー! 失敗だー!」


ソラは移転先で残念そうに大声を出す。

次に俺はロープを持たされ、全身に風をまとう。

フーは器用に風を操り、ロープには風をまとわせなかった。

だが、俺の全身から発せられる風圧に負けてロープは彼方に飛んで行ってしまった。


「ダメだぁ……」


フーのがっかりした声。

二人からは万策尽きた雰囲気が漂う。

俺は二人が何をしたいのか尋ねた。

結果、俺に風をまとわせた状態でソラと一緒に瞬間移動できる方法を探していることが分かった。

俺は少し考えて提案してみる。


「できるか分からないけど、ひとつ方法があるぞ」


俺たちが用意したのは、鍋のふた。

変哲のないガラス製のふたである。

持ち手は木製だ。

重要な点は、違う素材が繋がっていることだ。


「多分そんなに耐えられないから、すぐに瞬間移動してくれ」


俺はソラに急ぐように伝えてから、鍋の持ち手を掴む。

彼がはっきりと返事したのを確かめてから、フーに俺と鍋の持ち手だけに風をまとわせるよう頼む。

以前よりもずっと調節が上手くなったフーは、難なく俺と持ち手のみを風で覆う。

鍋のふたがガタガタと今にも壊れそうに激しく暴れる。

ソラは振動するふたに触れて、俺との瞬間移動を試みる。

俺の視界は暗転した。


「「やったー!」」


俺は二人の声で成功したことを知る。

相変わらず瞬間移動した俺の頭はぐわんぐわん回っている。

おもむろに俺は手のふたを見る。

思った通り強風にあおられ、鍋のふたはバラバラになっていた。

俺は違う素材が強固に繋がっている物が適切だと子供たちに助言し、休むことにした。

やはり瞬間移動は体に合わない。


それから五日、会議からは二週間も経った。

ドラゴンの行方は妖狐さんが把握しているとのことで、街に危険は及んでいない。

俺は変わらずのけ者で、俺自身に進展はなかった。

だが、ついに冒険者組合から呼び出しがかかった!

意気揚々と組合の建物に向かうと、すでに多くの冒険者が集まっていた。


「ユージン、こっちです!」


声の主はオハナだった。

俺は人をかき分けてオハナの元へ行く。


「もう集まっているんですね!

それで作戦は?」


俺は集まった人の熱気で気分が高まってきた。

オハナが別室で話すと言うので、俺は彼と二階の応接間に入る。

そこには、すでに別の男性がいた。


「紹介しますね。

こちらはベテラン冒険者のカルロスです。

この作戦でリーダーを務めていただきます」


カルロスはズイッと前に出て、俺に挨拶する。


「君がユージンか!

今回の作戦は君が肝だ!

よろしく頼む!」


力強く俺の背をバンッと叩く。

俺はあまりの力にぐえっとうめき声を出してしまう。

呼吸が落ち着くのを待って、俺は改めて作戦について聞く。


「オハナさん、作戦を教えてください」


オハナがついに作戦を俺に伝えた。

俺が耳にしたソレは、到底受け入れられるものではなかった。


「待ってください!

そんな作戦聞いてないですよ!

無理です!

無理だ!

無理!」


俺の反抗は予想通りだったらしく、待ち構えていたカルロスにあっさり捕まってしまう。

そのためのカルロスだったのか。

オハナは無情に俺を突き放す。


「縛ってください」


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