第66話_神の詫び

俺がいることに今初めて気付いたオハナは、混乱していた。


「え、ユージン?

なんで君がここに?

え、いやいやいや、妖狐様!

彼はまだ冒険者を始めたばかりで、正直なところ今回の捕獲には役不足かと……」


全くもって同意だ!

俺は首がもげるくらいの勢いで頷く。


「くく、ユージン、まだお前に伝えていないことがあったのだよ。

ソラ、フー立ちなさい。

それからユージンも」


何をすればいいのか分からず、居心地悪く立つ俺たち三人。


「まず紹介しよう。

ユージンは神から二人の子を任された。

それがここに居る子らだ」


妖狐さんの紹介にオハナはびっくりして、ぽかーんとしている。


「女の子がフー、男の子がソラだ。

二人とも特技がある。

フーは風を操れる。

フー、ちょっと見せてくれるかい?

この地図に風をまとわせておくれ」


「うん、わかった」


フーは両手をテーブルに載った地図に向ける。

何もない所から突如とつじょとして風が発生し、地図の周りで吹き荒れる。

地図がテーブルから高く舞い上がり、天井近くで止まった。


「緊張してしまったね。

少し威力を抑えて」


妖狐さんに指摘され、フーは空中の地図に再度手をかざす。

紙はヒラヒラとゆっくり降りてきたが、依然として浮いたままだった。


「よくできたね。

これがこの子の力だ。

さて、ソラは私の横まで空間移動しておいで」


ソラはこくんと頷き、その場から消えて妖狐さんの横へと移動した。

オハナは抑えていた声をついに漏らしてしまう。


「はぁ!?

そんなウソだろ!?」


妖狐さんはオハナの丁寧でない言葉づかいをあえて無視して、ソラに戻るよう伝える。

俺の横に瞬間移動で戻って来たソラは、オハナを驚かせたことが嬉しかったようで得意げだった。


「ここからが本題だ。

子供を任されたユージンにしかできないことがある。

もう少し子供たちが魔力の扱いに慣れた頃に教えようかと思っていたが、こんな事態が起こってしまってはな」


俺にしかできない事と聞いて、俺はワクワクした。

まさか風魔法や瞬間移動が俺にもできるのだろうか!?

妖狐さんの言葉を今か今かと待つ。


「元来子供の特技とは、人には効果がなく物に対してだけ効果を与えられる。

しかし、子供を任された人物だけは別なのだ。

ユージン、お前は人でありながらソラとフーの特技を受けられるのだ」


「え、受けられる?

俺が使えるんじゃなくて?」


俺は想像と違った答えが来てしまったばかりに、間抜けな口調で答えることしかできなかった。

そんな俺の反応に、妖狐さんは俺の意見を聞くことより会議を進行させる方を選んだ。


「では、試しにやってみよう。

ソラ、ユージンと手を繋いで空間移動してみなさい」


俺はソラに手を握られる。

瞬間、暗転して頭がグワンと揺れる。

次に目を開いた時には、妖狐さんの横に立っていた。

ふわふわする頭を押さえる俺の横で、ソラは新発見に喜んでいた。


「おおー! すげー!

兄ちゃんと一緒にできた!!」


「うむ、じゃあ戻りなさい」


妖狐さんがソラに優しい笑顔で戻るように指示する。

だが、俺は初めての瞬間移動に体がついてきていない。


「あ、ソラ、ちょっと待っ……」


自分のタイミングではなく勝手に引っ張られたような感覚で瞬間移動が行われる。

俺は体を物凄く揺さぶられた感じがして、ひどい疲労感だった。


「ソラ、今度やる時は先に声を掛けてな」


ゲッソリした俺には気付かず、ソラは分かったと軽々しく返事をする。


「次はフーだね。

地図にしたように、ユージンに風をまとわせてみなさい」


「うん、やってみるね」


また体に負担がかかったら嫌だなと思いビクつく俺に、フーはそっと手を差し出す。

ややあって全身に風が巻き起こり、服がはためいて髪が逆立つ。

強い風だと思ったのも極めてわずかな間で、いつしか俺の周りは静かになっていた。


「成功したよ」


フーの安堵した顔が俺に向けられる。

俺も痛みなど一切感じなかったので、同様に安堵の顔をフーに返す。


「成功したのを確認するために、ヨーデル、少しユージンに触れてみてくれ」


妖狐さんに名指しされ、ヨーデルは断れず要求を受け入れる。

ヨーデルが恐々こわごわと俺に触れようとした時、風に阻まれた彼は手を思いっきりはじかれる。

彼は防御の姿勢も取っていなかったので、テーブルにひじを強打してしまう。

悶絶するヨーデル。


「という具合に、風に包まれて何者も触れることができない」


妖狐さんは痛がるヨーデルのことなど全く気にせず、話を進める。


「ユージン、お前は能力を子供たちと共に使えるのだ。

しかも、二つもだ。

これに関しては、女神から説明がなかった神の詫びなのかもしれんな」


神は俺に育児を押し付けたわけでなく、ごめんねの気持ちで子を託した……ということか。

怒られるかもしれないが、神様も存外人間っぽい。

妖狐さんはずっと呆気に取られているオハナに向く。


「オハナ、このユージンを使って作戦を立案してみるがいい。

どうしてもできないようなら、プラチナを貸してやろう。

ああ、お前たちは黒百合姫と呼んでいるな。

さぁ、どうだ?」


オハナは驚きから動揺へと表情を変える。

返事のないオハナに発破をかけるように最後に妖狐さんは一言。


「信じているぞ、次期組合長」


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