第63話_ヨーデルハウス

早くも魔力のコントロールを身に付けたソラとフーは、妖狐さんの手ほどきで新たな技を獲得していた。


「うむ、上手くできたな」


フーの発した風をまとった本が、机から浮いている。

俺が本に手を伸ばしても、風圧によって防がれて本には指一本触れられない。

完全防備だ。

ソラが、フーの風魔法に見惚れている俺の腕を引っ張る。


「オレだって、すごいんだから!」


そう豪語した次の瞬間、ソラは消えた。

それから一分もしないうちに俺の前に戻って来た。

彼の手には石が握られている。


「はい! 鉱山で拾ってきた原石だよ!

オレ、見た事がある場所なら行けるんだ!」


ソラは遠く離れた鉱山跡に飛んだのだった。

渡された石にキラキラした粉が付着しているので、鉱山跡に瞬間移動したと思っていいだろう。


「すごい!

けど、一人で遠くに行っちゃダメだ!」


ソラは怒られると思っていなかったため、シュンとする。

俺は少し可哀そうになり、フォローを入れる。


「だけど、歩いて一時間くらいかかる場所に一瞬なんてすごいな!」


ソラはニコッと笑顔になり、満足した様子だ。

俺が上機嫌になった弟にホッとしていると、マッシモから連絡がきた。

胸のピンブローチをタッチする。


「マッシモ、どうした?」


「よぉ、ユージン!

俺がイイ物見せてやるぞ!」


「イイ物?」


一瞬キレイなお姉さんが俺の頭をよぎったが、そうではなかった。


「おう、ヨーデルの家が完成したぞ!

がははは!」


妖狐さんは仕事があったので、俺と子供たちだけで鉱山跡のさらに奥、ヨーデルの家があった場所まで行く。

呼び出された更地さらちまで行くと、マッシモとヨーデルが待ち構えていた。

もちろんヨーデルの羊たちも一緒だ。


「ついに俺の家が完成したんだよ!」


羊飼いのヨーデルが声高こわだかに宣言する。

完成したと言っているが、彼の家があったらしき場所には何も見当たらない。


「ふふふ、見たいか?」


マッシモが怪しげな笑みで誘う。

そのために足を運んだのだから、返事は当然イエスだ。


「見たい!

どこにあるんだ?」


「これだ!!」


俺たちの前に差し出されたマッシモの手には、よくできた家の模型が乗っていた。

しかもご丁寧にリボンまで付いている。

プレゼントとして、ヨーデルに模型を渡すのだろうか?


「ヨーデルは模型で満足なのか?」


「がははは!

そうだろう、そうだろう。

心配だよなぁ!」


マッシモとヨーデルは、嬉しそうにニヤニヤと笑う。

まるでその反応を待ってましたと言わんばかりに。


「じゃ、お披露目だ!

ちょっと離れてろよ」


俺と子供たちは数歩下がり、様子をうかがう。

マッシモはせっかく付けてあったリボンをほどき、模型を地面に置く。


「くるぞーーー!!

がははは!!」


マッシモたちの異様なテンションの高さについていけなかったが、ひとまずは模型を見つめる。

小さな家が、ミシミシと音を立てている。

何が起こるか分からない恐怖で子供たちは、俺にしがみつく。

次の瞬間。


ボンッ! ボンッ! ボンッ!


模型は、破裂音を鳴らして煙を吐き出す。

煙が消えると、模型が本物の家に大変身していた。


「なんじゃこりゃーー!!?

家の模型が本物になったぞ!!」


俺の反応にヨーデルとマッシモは、とても満足そうな顔をしている。

一呼吸置いて、マッシモは自分が設計した家について語る。


「驚いただろう?

これは旅をする羊飼いのために作られた持ち運びハウスだ!

その名もヨーデルハウスだ!」


マッシモの発言にヨーデルが付け加える。


「持ち運べるなら、家が破壊されることもないからな!

まぁ、今となっては前の家を壊したことも許すよ。

俺は最高の家を手に入れたからな!」


嬉しさが爆発して高笑いの止まらないヨーデル。

もう面倒なので、俺は放っておくことにした。

マッシモは我関せずの態度で、自分が作ったヨーデルハウスの紹介を続ける。


「ヨーデルハウスにもう一度リボンを付けると、こうなる!」


マッシモは、家と同じように大きくなったリボンをヨーデルハウスに巻きつけて結んだ。

すると、また家がミシミシときしみ始める。

今度は ポンッ! ポンッ! ポンッ! と小さな弾ける音を出す。

煙が消えれば、家は先ほどの模型に戻った。


「おぉ……戻った!

マッシモ、これはどういうことだ!?」


「ふふふ、すごいだろ?

シルバーフォックスとマッシモ商会の共同製作だ。

秘密はこのリボンだな。

ユージンは、ヨーデルの羊がロープで小さくなったのを覚えてるか?」


俺は、ルックルさんがヨーデルの羊をロープでくくって小さくしたことを思い出した。


「あぁ、たしかヨーデルが初めてシルバーフォックスに来た時だよな」


「そうそう!

その話をな、ヨーデルから聞いてピンときたんだ!

ロープをリボンに変えて、家を小さくしてみたってわけだ!

じゃ、贈呈だ」


マッシモがうやうやしく模型となったヨーデルハウスを授与者に引き渡す。

授与されたヨーデルは嬉しさでプルプルしている。

礼儀正しく丁寧な雰囲気のせいで、受け渡しが終わると俺と子供たちは拍手していた。

莫大な借金は背負ってしまったが、恨みを買うことなくヨーデルの一件が無事に終了して俺は安堵した。

あとは、ヨーデルがリボンを無くさないことを願うばかりだ。





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