第62話_特訓の成果

商談がまとまったホクホク顔のマッシモを見送り、俺は子供たちに会いに行く。

今日も特訓に励んでいたらしいが、ソラは相変わらず葉を成長させることができていなかった。


次の日も、子供たちは魔力制御の練習を積む。

予定のなかった俺がお目付け役だ。

フーが大小様々な花を咲かせる一方で、ソラは魔力を土に注入し続けた。

一日中そんな具合だったので、中庭は美しい花々が咲き乱れて栄養の良い土が出来上がっていた。


そろそろおやつか……と考えていた時、一人の男性が俺たちに駆け寄る。


「ユージンさん!

あなたですか!?

このような素晴らしい中庭にしてくださったのは!」


「え、えっと、どちら様でしたっけ?」


「あ、ああ!

大変失礼しました!

私は庭師のシャルダンです!」


初対面の庭師が勢い良く来たものだから俺は少し引いたが、普段中庭をシルビアにめちゃくちゃにされていると思うと余程嬉しかったのだなと理解できた。


「花を咲かせたのは、この女の子フー。

男の子のソラは土を、まぁ、改善した感じです」


きっと庭師のシャルダンは花に感銘を受けているのだろうと俺は考え、ソラについてはやんわりと紹介しておく程度に留めた。


「美しく香りを放つ花たち!

何より土がいい!」


ソラは突然失敗作だと思っていた土を褒められて、目をぱちくりさせている。


「ソラさん!

あんな土は見たことがないですよ!

どれだけ素晴らしい植物が育つことか!」


シャルダンは延々とソラが作った土の素晴らしさを語った。

元気のなかったソラも、次第にいつもの調子に戻ってきた。

ありがとう、シャルダン。


庭師から解放された俺たちは、おやつを食べにキッチンへ移動する。

今日は妖狐さんも仕事のようで、俺たちの方には顔を出していない。


おやつは俺が用意するしかないよな。

何がいいかな。

たまにはフルーツかな。

俺の好物、ぶどうがいいな!


キッチンのお皿を借りる。

俺は皮ごと食べられるシャインマスカットを無から作り出した。

はさみで枝を切り、一房を三等分にする。

ひとつは、もちろん俺の分だ。


「このぶどうは、皮のついたまま食べられるぞ」


「「わーい! いただきます!」」


二人が皮ごと食べているのを確認してから、俺も食べ始める。

上品な香りと甘さが口いっぱいに広がる。

うまい!

二人が食べているのを横目で見ながら、俺も食べ進める。

俺が食べ終わる頃には、フーも食べ終わっていた。


「お兄ちゃん、これ美味しかったー!」


「フーも好きか!

俺もシャインマスカット好きなんだよ。

美味しいよな。

……あれ、ソラはまだ食べてるのか?」


ソラの皿にあるシャインマスカットは、全く減っていない。

気に入ってチビチビ食べているのか、と思って彼を見た。

食べるペースはフーと変わらないように感じるが、ぶどうの粒は減っていない。

どういうことだ?


「兄ちゃん、俺これ好き!

うま~ぃ!」


ニコニコしながら、シャインマスカットを一粒取る。

次の瞬間、粒を取った場所から新しい粒がポンッと出てきた。


「待て!

ソラ! どういうことだ!?」


「え? 何が?」


「今ぶどうを取った所から、新しいぶどうが出てきただろう!?」


「うん!

ぶどうに魔力を送って新しいぶどう作ってるの!」


「ソラ……それって……魔力のコントロールできてるよね……」


俺より先にフーがあきれたように言う。


「ん?」


当の本人は全く理解していない様子だ。


「ソラ、特訓は覚えてるよな?

植物に魔力を移すんだったよな?」


「うん……でも俺全然できなかった……」


「いやいやいや!

今、お前がやってる、それ!」


「ん?

新しいぶどう作るのがどうしたの?」


「ソラ……いいか?

ぶどうも植物だ」


「ん?

あ?

あーーーー!!」


ここまで説明してようやく理解したソラ。

紆余曲折うよきょくせつあったが、どうにか二人とも神から出された宿題をクリアした。




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