第61話_商談

「ルックルさん、戻りました」


俺がシルバーフォックスに戻ると、ロビーでルックルさんが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ。

おや、マッシモさんもご一緒で。

本日はこちらにはお越しにならないはずでは?」


「今日はヨーデルの家についてじゃなくて、別件だ。

ユージンの仕事と関係がある話だから、ユージンの報告に同席させてほしい」


ルックルさんは、しばし思案した後に了承し、俺たちを応接室に案内してくれた。

応接室で紅茶を飲みながら待っていると、妖狐さんが現れた。


「ユージン、仕事ご苦労だった。

マッシモも何やら話があると聞いたぞ。

にもかくにも、まずは報告を聞こうか」


俺は鉱山跡で起きたことを話し、持ち帰った原石と思われる石ころをリュックから取り出した。

妖狐さんは、それらを入念に確かめる。


「きちんと鑑定すれば明確になるが、恐らくこれは原石だ。

にしても、テルが原石を光らせる……か。

それは初耳だな。

くく、マッシモ分かったぞ、お前の魂胆こんたんが。

この話に一枚噛みたいのだな」


頭をかきながらマッシモがへへへと笑う。


「そうなんです。

マッシモ商会に、テルを利用した原石を発見する道具を任せていただけないでしょうか?

シルバーフォックスが使うにふさわしい一品をご提供しますので!

ぜひ! 何卒!」


「テル自体はネル爺の発明だから、そちらと共同開発になると思うがいいのか?」


「構いません!

どうかよろしくお願いします!」


マッシモは頭を深々と下げ、妖狐さんに懇願している。

熱意がすごい。

これが商人ってやつか。


「ふむ。

テルの技術を使った鉱石掘りが実現すれば、労力がかなり削減できるからな。

よかろう。

ネル爺には、私から話を通しておいてやろう」


「ありがとうございます!」


マッシモは立ち上がり頭を勢いよく下げる。


「なに、いいさ。

マッシモとユージンが見つけた現象だ。

それに、うちはアクセサリー屋で、そういった道具の専門ではないのでな。

だが、他店に渡す新しい道具は……わかるな?」


「もちろんでございます!

広く一般に流通させる新道具は、機能を下げて販売致します。

シルバーフォックスにお渡しする品は、他と一線を画す物をご用意するつもりです!」


「よろしい。

では、話を進めよう」


「ありがとうございます!」


どうやら商談がまとまったらしい。


「よかったな、マッシモ。

ところで、マッシモ商会って住宅用品を取り扱ってるんじゃなかったか?」


「基本的にはな!

だが、こんなお金の匂いがする話を商人なら逃すわけいかねぇだろ!

がははは!」


「くく、この街一番の商人だからね、マッシモは」


妖狐さんに褒められてマッシモはこの上なく照れている。

珍しい。


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