第58話_特訓②

「なぁ、ソラ、土の色が変わってないか?」


「え?」


彼は踏ん張り過ぎていたのか、こちらを見る顔が真っ赤だ。


「えぇ、そうかなぁ?」


「そう言われてみれば、私の土と違うね!」


ソラは分かっていなかったが、フーが指摘した通り左右で土の色が違った。

フー側の土はパサパサしているが、ソラ側は栄養がありそうなしっとりとした土だった。


「フー、今度はソラ側の土で花を咲かせてみてくれ」


「うん! やってみるね!」


フーはソラが居た花壇の前にしゃがみ、花の咲いていない草に向かって手をかざす。

ほのかな灯り先にある草はぐんぐん伸び、てっぺんに花がポンッポンッポンッと咲いた。

フーは正しいタイミングで魔力を注ぐのをやめたので、巨大植物になることはなかった。

彼女は早くもコントロールできるようになったことを俺の前で証明したのだった。


「上手にできたな!」


「でも、さっきより大きいのできたよ?」


「それが土の効果さ!」


よく分かっていない顔をした子供たちに、俺は解説してやる。


「ソラは葉に魔力を移したんじゃなくて、土に魔力を移してたんだよ。

そりゃ、いくら経っても葉は育たないよ」


「そっか!

今度は葉っぱに魔力を移すね!」


「うん! 頑張れ!」


俺とフーが見守る中、彼は葉に手をかざし魔力を注ぎ始める。

……葉に変化なし。


「んーーー!!

えーーーい!!

うーーーーん!!!」


……葉に変化なし。


「なんで何も起きないんだよ!!」


半べそのソラが叫ぶ。


「ソラ、あの……また土の色が変わってる……」


「なんでだよーーー!」


フーの指摘に、彼はオレンジ色の髪をくしゃくしゃとき乱した。


「ソラはさ、魔力を移す時に何を考えてる?」


俺の質問にうなるように考えるソラ。

少しの間の後、こう答えた。


「なんか地面からぐわぁーーって大きくなる感じ!」


「それだ!」


「え?」


「たぶん地面を意識しすぎなんだと思う。

フーは何を考えてる?」


「私は葉が大きくなぁれって思ってる」


「よし、じゃあ、今度は地面のことは一度忘れて、葉のことだけ考えて魔力を移すんだ。

分かったな、ソラ?」


「うん、やってみる!」


しかし、結果は同じで土が良質になっただけだった。

やはり一度ついたイメージを崩すのは容易ではなかった。


「全然できない……」


明らかにモチベーションが下がっている。

俺が困ったなと思っていると、フーがソラの隣に座りポソッとつぶやいた。


「これじゃ、じいじに勝てないね」


この一言が彼に火をつけた。


「絶対俺が勝つんだ!

負けないから!」


大賢者タルボットとの追いかけっこで勝ちを逃したのが、相当悔しかったのだろう。

ソラは、そこから何度も何度もトライアンドエラーを繰り返した。

もちろん彼の努力もすごいのだが、フーのツボを押さえた発言もすごい。

血の繋がりがあるからこそ為せるわざか。


「くっそぉ……できない……」


結局その日、ソラは植物に魔力を移すことに成功しなかった。

大量の良質な土だけが生成されたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る