第57話_特訓①

屋敷では、ネックレス型のテルを身につけた弟と妹が自慢げに俺を出迎えた。

ソラのネックレスには、鮮やかな青の宝石。

フーのネックレスには、鮮やかな赤の宝石。

俺はそれぞれとテルの連絡先を交換した。


「さて、神から伝授された練習法を見せてやったらどうだい?」


妖狐さんに練習の披露を勧められて、フーが一歩前に進み出た。


「じゃあ、この葉っぱでやるね」


フーは花瓶に生けられた葉を指さす。

生けられた植物には花がないので、たぶんシルビアが摘んできたのだろう。


「うむ、好きに使って構わないよ」


「ありがとう!」


フーは花瓶を自分の方へ引き寄せ、葉に手をかざす。

集中しているのかフーは目をつむっている。

かざした手にホワッと優しい光が灯ると、次第に葉が伸びてくる。

俺は思わず声が漏れてしまった。


「おぉ……すごい……って、ええええ!!」


直後、葉が物凄い勢いで伸び始める。

光も目が痛くなるくらい強くなる。

花瓶は割れ、見る見るうちに葉が巨大植物へと変貌へんぼうしてゆく。


「うわぁぁぁぁ!!

なんだこれぇ!!」


驚いたソラが叫び、俺も待ったをかける。


「ちょ、ちょ、ちょ!!

フー!!

ストォォォォップ!!!」


俺たちの声でフーはようやく集中を解く。

すると光の洪水はおさまり、葉の成長も止まる。

部屋の中にどデカくなった葉が広がる。

ここはジャングルか?


「ああああ!

ご、ごめんなさい!!」


「くく、さっきよりもすごいことになったね。

フーの課題はコントロールだな。

強すぎる力をいかに制御するか」


俺がいない間に行われた秘密の特訓でも、フーは葉を巨大化させていたようだ。


「うぅ、失敗……頑張る……」


「元に戻すくらいどうってことないから、気にせず頑張りなさい」


妖狐さんが巨大植物と割れた花瓶を見つめる。

わずかな間の後、巨大植物はシュルシュルと縮み、元通りになった花瓶に収まる。


「わぁ! すごい!

ありがとう! ばあば!」


「中庭の一角を二人の練習で使うといい。

ソラは、イメージを大事に」


「わかってるよ!」


ソラの返答から、俺は彼が上手くできていない事を察した。

やる気になった二人は「「練習してくる!」」と中庭に飛び出して行った。


「ちょっと見張ってきます」


「うむ。

もしも何かあったら、魔力を使って元に戻してあげなさい。

そういう時のための神の恵みだ」


「わかりました」


俺はかさむ魔力を心配しつつ返事をして、庭に出た二人を追いかける。

中庭の一角にある花壇に子供たちの後ろ姿を見つける。

少し遠目から声をかける。


「二人とも調子はどうだ?」


フーが満面の笑みで振り返る。


「お兄ちゃん、お花咲いたの!」


「どれどれ……」


俺は花が咲いたという花壇に近寄る。

背の低い花ではあったが、地面一杯に花が咲き乱れていた。


「もうコントロールできるようになったのか!?」


「本当はもっと大きな花を咲かせたかったんだけど……」


「いやいや、さっきの暴走に比べたら、立派な進歩だよ!

驚いたよ!」


「えへへ、うれしい」


フーはどうやら天才型らしい。

あっという間に力の加減を覚えてしまった。


一方ソラと言えば……


「んーーー!!

えーーーい!!

うーーーーん!!!」


ずっと花壇に手をかざして踏ん張っているが、何も起きない。

だが、フーと同じように手のあたりに優しい光は灯っている。


「おかしいな、なんで何も起きないんだ?」


「そうなの、お兄ちゃん。

ソラ、ずっとああやって頑張ってるのに何も出てこないの」


俺は二人の横で腕組みをしながら、考え込む。

どうしてソラの植物は何も起きないんだ?

しばらく様子を見ていると、俺はある事に気付く。


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