第56話_再チャレンジに向けて

俺が妖狐さんの下で働く決定を踏まえて、妖狐さんは俺に初仕事の再チャレンジを打診した。

いや、命じた。

鉱石掘りのリトライだ。


「鉱石を採って来るというより、鉱山の様子見といったところだ。

詳しくはルックルから後ほど伝えさせよう」


すっかり皿も空になったので、全員が席を立った。

妖狐さんは、子供たちを連れて自宅へ戻る。

何やら秘密の特訓をするそうだ。

取り残された俺は部屋に戻ってゆっくりしようかと思っていた。

……が、マッシモがヨーデルの家の再建案を話したくてたまらなそうだったので付き合うことにした。


俺たちは応接室を借りて、再建案について話す。

マッシモが、テーブルの上に大きな紙を広げる。

そこには完成予想図が描かれていた。

ヨーデルの家は、こぢんまりとした木で出来た小屋だった。

かわいらしいと言えばそうだが、何だか質素でもあった。

ヨーデルは意外に欲がないんだな、と俺は思った。


「ふふふ、これが本当にただの小屋だと思うか?」


マッシモが不敵な笑みを浮かべて言う。


「どういうことだ?」


「このマッシモ商会代表であるマッシモが、そんなただの小屋を作るかって話だ!

ヨーデルもノリノリでな!

がははは!」


前言撤回。

やっぱりヨーデルは欲深い。


「そうなのか。

で、どんな家になるんだ?」


「それは完成してからのお楽しみだ」


「え!?

そこまで言っておいて、教えてくれないのか!?」


「ふふふ、まぁ、楽しみにしてろ!

がははは!」


俺は費用が心配になって、乾いた笑いしか出てこなかった。

それに気づいたマッシモが「安くしておくから」と慰めてくれたが、不安でたまらない。

結局マッシモは、それ以上何も教えてくれなかった。

そこにルックルさんがお茶を持ってやって来た。


「お茶はいかがですか?」


「ありがてぇが、俺はそろそろおいとまさせていただくよ。

この案件について詰めなきゃいけねぇことが山積みだ」


「かしこまりました。

また明日もこちらにいらっしゃいますか?」


「いや、明日から現場に行くから、こっちには来ねぇと思う。

何かありゃ、テルに連絡くれ!」


マッシモは、サッと大きな宝石の付いた羽ペンを取り出す。


「あ、テル」


俺の独り言がマッシモの耳に届き、マッシモは俺に聞き返す。


「ん?

ああ!

俺のテルはこいつだ!」


「俺も手に入れたんだ」


俺は、胸元に付いているピンブローチを指さす。


「なかなか洒落しゃれてるじゃねぇか!

じゃ、連絡先交換といくか!」


そう言いながら、マッシモは羽ペンの宝石と俺の宝石を軽く当てた。


「これでいつでも連絡できるわけだ!

がははは!

じゃあ、今日はこれで!

またな、ユージン!」


「ああ、また!」


マッシモのズカズカと歩く音が遠のいていく。

ルックルさんがお茶を入れ、鉱石掘りのリトライについて語り出す。


「では、妖狐様から再度受けた鉱石採りのお仕事についてご説明いたしますね」


「今回は何をすれば?」


「そうですね……なにせ鉱山が瓦礫がれきの山になってしまったので……」


ルックルさんがお茶を俺に渡す。

渡すその手に力が入っているような気がする。

俺は、顔が引きつる。

ルックルさんがメガネの奥から刺すような視線で俺を見る。


「ユージンさんには、その瓦礫の山から鉱石を採ってきていただきます」


「はい! 喜んで!」


ルックルさんの怒りに触れないように返事をする。

いたたまれない俺は、れてもらった紅茶を飲む。


「方法はお任せします。

正直このような事態は初めてなので、ツルハシが使えるのかも分かりません。

鉱石を採るというよりも、調査に近いかもしれません。

かつて鉱山だった場所の様子を調べてきてください。

可能であれば、鉱石の採取もお願いします」


大切な鉱山を破壊された怒りがじわじわとルックルさんから伝わり、俺はただただ申し訳なく思う。


「わかりました。

お役に立てるように頑張ります。

あ、ピンブローチが!」


中央都市アンジェの黄金の噴水に居た時のように、ピンブローチが点滅しながら震える。

耳に直接機械的な音が流れる。


「妖狐から連絡です」


たしか触れれば、話せるんだよな。

俺はピンブローチの宝石に触れる。


「あ、はい? もしもし?」


「ユージンか?

二人が特訓の成果を見せたいそうだ。

私の屋敷まで来い」


「わかりました!

今行きます!」


通話が切れる。

俺はこれ幸いと素早く応接室から逃げ出し、妖狐さんの屋敷へ向かった。


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