第55話_俺の昼食

「あ、そういえば、マッシモ様がいらしてます。

今はヨーデル様と新しい家についてご相談中でございます」


執事のルックルさんが、ヨーデルとマッシモが会議中と告げる。

ヨーデルと言えば、あの羊飼いだよな。

フーの必殺かまいたちで家を木っ端みじんにしてしまった、あの……。

でもマッシモが家の再建を担当してくれるなら、安心だ。


「マッシモか、久しぶりだな。

会いたいな」


俺がポツリとつぶやいた言葉に妖狐さんが反応する。


「ふむ、私もマッシモには久しく会っていないな。

たまには挨拶くらいしておこうかね」


俺たちは応接室までやって来た。

妖狐さんが扉をノックする。

ヨーデルの楽しげな声で返事がある。


「おう! いいよ! 入って!」


扉を開けて入室する妖狐さん。

賢者妖狐を見たヨーデルは、何も言えずに目を白黒させている。

マッシモは妖狐さんに頭を下げ挨拶する。


「妖狐さん、お久しぶりです。

お邪魔してます」


「うむ。

マッシモ、久しぶりだな。

たしかユージンとは知り合いだったな?」


妖狐さんの後ろに控えていた俺を見つけて、マッシモは固い表情から一転ニコニコっと笑う。


「え? おお! ユージン!

久しぶりだな!!

お、その子供は……?」


「久しぶり!

この二人はソラとフーなんだ!」


「なんてこったい!!

あんなちっこい光だったのに、子供になっちまったのか!!

よおよお! 元気か? お二人さん!!」


子供たちはちょっと気恥しいのか、俺の後ろに隠れて照れ臭そうに笑っている。


「積もる話もあるだろう。

ここらで一度休憩にして、一緒に昼食でも取ろうじゃないか」


妖狐さんが昼食をみんなで取る提案をする。


「いいですね!

マッシモとヨーデルさんもぜひ!」


俺は家の相談をしていた二人にも声をかける。

しかし、ヨーデルは目を見開きブンブン首を横に振りながら言う。


「と、と、とんでもない!!

お、お、お、おれが、け、け、賢者様とお食事だなんて!!

こ、こ、これで失礼します!!」


それだけ言うとダッシュで部屋を駆け抜けて消えてしまった。

あんなに妖狐さんに会いたがっていたのに、いざ会うと萎縮いしゅくしきりだったな。


「まぁ、よくあることさ」


俺に言うように妖狐さんはつぶやいた。


「では、ダイニングへ移動しようか」


妖狐さんに引き連れられ、俺たちはぞろぞろとダイニングルームへ移動した。

長テーブルに皿とカラトリーだけが用意されている。

今からどんな豪華な料理が出てくるのかワクワクする。


「じゃあ、今日はユージン、お前さんが料理を提供しなさい。

ソラとフーの保護者なんだから、食事の世話もしなければ。

そのための神からの恵みだ」


期待を裏切る妖狐さんの発言に、ショックを受ける俺。

だが、俺がやらなければならない事だよなと思い直す。

そして何を作ろうか思案する。


「分かりました!

皆さんの分も作ります!

ルックルさん、深いどんぶりのようなお皿をください」


傍に控えていたルックルさんにお願いして、人数分のどんぶりが用意される。

俺は念じる。


『ラーメン!!』


すると、深い皿にホカホカのラーメンが出来上がった。

美味しそうな匂いに、みんなの喉が鳴る。


「うまそーー!

兄ちゃん食べてもいい?」


「どうぞ。

ちゃんとフーフーしろよ」


「いただきまーす!

あっちぃっ!!」


見覚えのある光景。

だから、注意したのに。


「私もいただきまーす!」


ソラと違い、フーはちゃんと冷ましてから食べている。

そして一口食べれば、美味しそうに「ん~!」と言っている。


「ラーメンか、どれ、私も。

いただきます」


妖狐さんもモグリと一口。


「んん!

これは美味しいな!

現代のラーメンがここまで進化していたとは!」


妖狐さんが知っているラーメンよりもおいしかったらしい。

よかった。


「ところで、ユージン、魔力確認を忘れずにな」


すでにガツガツと食べ始めていたマッシモから指摘を受ける。


「そうだった。

魔力を使ったら確認っと……」



『魔力確認』

ユージン

22,177,599


履歴

-5,400 ラーメン作成

-10,000 妖狐の憤怒

(省略)



食費がかさむなぁ……。

地縛霊になるわけにいかない俺は、どうやって魔力を稼ぐか悩む。


「気付いたか、ユージン。

神から頂戴した魔力なんて子育てしたら、すぐになくなってしまうのだよ。

それに忘れてはいないか?

ヨーデルの家の再建費をシルバーフォックスが肩代わりしていることを」


妖狐さんの発言は、俺が借金をしていることを意味していた。

忘れていた事実を前に固まる俺に、妖狐さんは食べる手を止めて言う。


「唯一解決する手があるぞ。

私の下で働け」


にやりと悪い笑いをして、妖狐さんはラーメンを頬張った。

こうして他の選択肢を与えられることはなく、俺は妖狐さんの部下になった。

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