第54話_魔具テル

俺は気恥ずかしくなり、再び話題を変える。


「ところで、このピンブローチって電話みたいですね」


「電話、そうだな。

通信専用の魔具だ。

ネル爺が作ったのだが、たしか『テル』と呼んでいたな」


「ネル爺?」


俺は初めて聞く名を口にする。


「うむ、我が街トリコの隣の街を統治する賢者だ」


俺は他にも街があることを初めて知る。

ここ以外の場所はどんな所なのだろうかと思いを巡らせるが、妖狐さんはそそくさと通信専用魔具『テル』の話に戻ってしまう。


「テルの石に一度触れれば通話、二度触れればスピーカー、三度触れれば立体映像になる。

石ではないところを長く触れば連絡を拒否することもできる。

それと、手紙……現代的に言えばメールか。

通話していない時に石に長く触れれば、そのやり取りもできる」


「優れものですね!」


と言いつつ、俺は使い方の半分程度しか理解していない。


「うむ。

しかし、誰彼なしに連絡が取れるわけではない。

事前に通信の許可が要る。

おのれのテルを相手のテルに触れさせればいいだけだがな」


「いや、本当に便利ですね!」


「では、そのピンブローチ型のテルはユージンにやろう。

使いこなすがいい」


おっと、使いこなせる気が全然しない。


「あ、ありがとうございます!」


困ったな……という雰囲気をフーに勘付かれ、フーがコソッと俺にささやく。


「私、全部覚えたから、分からなくなったら聞いてね」


頼りになる妹!

兄の威厳はゼロです。


「ねぇ、ばあば!

オレもテル欲しいぃ〜!」


「あ、私も〜!」


ソラとフーも通信魔具のテルが欲しいと騒ぎだした。

妖狐さん、どうするのかな?

……と思って様子を見ていると……


「うむ。

二人にもやろう!」


「「やったー!!」」


って、快諾か!!

ばあば甘いな!

でも二人に使い方教えてもらえそうだし、ちょうどいいかな。

でもこれって、若者に機械の使い方を教えてもらう悲しい中年だ。

いや、それは嫌だな!

ならば、ここは……


「一緒に頑張ろうな!」


俺の謎の声がけに、ソラとフーは「うん」とも「ううん」とも言えない返事をする。

妖狐さんだけが笑っている。

そうこうしているうちに、辺りが薄っすら明るくなる。

出口が近付いてきたようだ。

目の前の黒幕が取り払われれば、そこは俺たちが滞在させてもらっているシルバーフォックスだった。

久しぶりな気がして、少し懐かしい気持ちだ。


「お帰りなさいませ。

皆様、お疲れ様でございます」


「ルックルさーん!

ただいまー!」


「ルックルさん!

お腹空いたー!!」


出迎えてくれたのは、執事のルックルさんだった。

ソラとフーは彼に近寄り、昼食のおねだりをしている。


「ふふ、それでは、お昼に致しましょうかね」


ルックルさんの柔らかい笑みと共に俺たちは室内へ足を運ぶ。


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