第51話_ソラ v.s. 大賢者③

「では、最後の勝負……始め!」


俺が声をあげると、なんとソラは目を閉じてしまった。

だが、これはいい作戦だ。

目線で出る先が分からなければ、四回戦と同じように出た瞬間には捕まらないはずだ。

彼が瞬間移動する。


出たのは、左。

前にではなく、ソラは真横に移動した。

そして俺の予想通り、一回目の転移でタルボットは彼を捕捉できなかった。

ソラは二回目の瞬間移動を忘れることなく、今回は実行する。


一回目で捕まえられなかったタルボットは、彼が消える前に動き出していた。

着ている白い服をはためかせ、ゴブレットのある後方へ移動する。

……実際には、後方に行ったようだったと言うべきかもしれない。

俺には、タルボットの動きは速すぎて見えなかった。


パシッ!


何かを掴む音が聞こえる。

それはソラがゴブレットを掴んだ音なのか、はたまたタルボットがソラを捕まえた音なのか。


二回目の転移は右のゴブレット前だった。

そこで、ソラはゴブレットを掴んだ……はずだった。


「ふぅ、ぎりぎりでした」


金のゴブレットまであと数センチという所で、ソラはタルボットに手首を掴まれていた。


「くっそぉぉぉーーー!!」


本日二度目の叫び。


「どうしてここに出てくるって分かったんだよー!

だって、オレ目をつむってたのに!」


「目線以外でも先読みはできます。

例えば、体の向き……とかですね」


「そっかぁぁぁぁーーー!!」


そう言ってソラは頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「しかし、発想力も度胸もあります。

これは天賦の才と言っていいでしょう。

とは言え、まだまだマリーシアが足りませんね」


「マリーシアって何?」


ソラが質問する。

俺もその言葉は知らなかった。


「簡単に言えば、『したたかさ』です。

より機転を利かせて駆け引きを行い、困難を打開する力とでも言いましょうか。

多くを学び経験したことによって身に付くものでもあります。

この界層でたくさん経験して学んでください」


先程までの厳しく接していた態度など嘘のように、タルボットは優しい笑みを浮かべている。

ずっと黙っていた妖狐さんが、タルボットに指摘する。


「大賢者らしさを見せるのには満足したか?

代行者から力のコントロール方法については聞けたんだろうな」


妖狐さんからの容赦ない物言いで、大賢者は形無しだ。

タルボットは頭をポリポリとかきながら苦笑いする。


「うん、植物に魔力を移す練習が最適とおっしゃっていたよ」


「あの練習か」


どうやら妖狐さんは知っているようだ。

タルボットが子供たちに声を掛ける。


「二人とも素晴らしい才能を持っています。

フー、その年齢でそれだけの力を発揮できるのには驚きました。

しかし、上手く使ってこその力です。

練習して力を制御できるようになってください」


タルボットは、続けてソラに話す。


「ソラ、君は誰にも負けない力を手に入れられるかもしれません。

しかし、そのためには経験と学びが必要です。

まずは練習を積んでよりスムーズに能力を使えるようになってください」


二人はタルボットの話を真剣に聞き、小さく「はい」と言って首を縦に振った。

かくして、ソラとフーの力試しは終わったのだった。


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