第49話_ソラ v.s. 大賢者①

ゴホンッ! とタルボットが咳払いをする。


「せっかくお越しいただいたのだから、大賢者らしさが必要ですね。

では、そのらしさせましょう」


にっこり笑うその顔には、自信で満ちていた。


「ソラ。

次は君の番です」


「やっとだ!

オレだってすごいんだからな!」


「たしかソラは、空間魔法を使いましたね。

では、私と追いかけっこをしましょうか。

ここにゴブレットが三つあります」


タルボットは無から金の杯を三つ出す。

そして、それを自分の後方に一つずつ距離を取って置いていく。


「ソラは扉の前から少なくとも二回以上空間移動をして、私の背後にあるゴブレットのいずれかを取ってください。

私に捕まったらやり直しです。

それを……そうですね、五回勝負にしましょう」


「二回以上瞬間移動して、それを取ればいいんだよね!

余裕じゃん!

一回で終わりだ!」


「それでは、入口まで移動してください。

始めましょう。

ユージン、始まりの合図をお願いします」


「わかりました。

ソラ、準備できたか?」


シャボン玉の膜が張っている入口まで移動するソラに、俺は声をかける。

位置に着いたソラが顔を上げる。


「いいよ!」


ソラは楽しさがあふれ出た笑顔でにぃぃと笑った。

それは自信の表れでもあった。

俺はスタートの合図をする。


「では……始め!」


間もなく、ソラが最初の瞬間移動で消えた。

次の瞬間、左前方に現れた彼はタルボットに手首を掴まれていた。


「はい、やり直しです」


「……え……なんで……」


ソラにとっては、青天せいてん霹靂へきれきだろう。

ちなみに俺とフーも、一体何が起きたか分かっていない。

タルボットは瞬間移動の直前まで、所定の位置であるゴブレットの前に立っていた。

ところがソラが移動した時には、もう彼を捕らえていたのだ。

一つ言えるのは、タルボットが目にもとまらぬ速さで移動したこと。

それだけでも理解不能が、なぜソラの転移先まで分かるのだろうか。

さっぱり分からない。


「さて、二回目を始めましょう」


「た、たまたまだ!!」


ソラには間違いなく驚きと焦りがあったが、強がっている。

彼がスタート地点に戻ったことを確認した俺は、二回目開始の合図を出す。


「では二回目……始め!」


ソラは掛け声と同時に消える。

しかし、ついさっきと同じように転移先ですでに待ち構えていたタルボットに捕まってしまう。


「くっそぉぉぉーーー!!」


ソラは悔しさから叫ぶ。


「三回目もやりますか?」


「やる!

次は絶対に捕まらない!!」


ソラはタルボットの質問に即答し、怒りながらドシドシと入口の方へ歩いて行く。


「では、ユージン。

合図をお願いします」


タルボットの淡々とした呼びかけに、俺は両者見合ったところで勝負をスタートさせる。


「三回目……始め!」


落ち込んでいるかと思われたソラが、少し笑った?

かと思うと、彼は消えた。

俺たちは、すぐにソラを見つけ出すことができずにいた。


「あ!」


驚いたフーが指差す先には、壁に沿って並べられた大きな石像があった。

ソラは、その上は居た。

俺たちは予想外な移動先で呆気にとられたが、残念なことにタルボットも石像上に居た。

つまり、ソラはまたしても捕まってしまったのだ。

タルボットはソラを抱えてフワリと地面に降りる。


「いいですね!

そうやって物事を広く見てください。

では、四回目です」


ソラは悔しそうにタルボットをにらみ、開始位置へ戻って行く。

戻る背中には、動揺と怒りが見て取れる。


「じゃあ、四回目いきます!

始め!」


ソラは明らかに動揺していた。

せっかく思いついたアイディアも大賢者相手に通用せず、自信はもう崩壊寸前だ。

取り乱しているのか、目が泳いでいる。

その目がある一点を見つめ、間髪入れず瞬間移動しようとする。


「ソラ!

ちょっと待った!!」


どうしてタルボットが転移先に前もって居るのか分かってしまった俺は、思わず大声で彼の瞬間移動を止めていた。




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