第48話_フー v.s. 大賢者

俺は今、この界層の中心地である中央都市アンジェの宮殿にいる。

なぜかじいじとばあばとなった大賢者タルボットと妖狐さん、そしてそれを喜ぶソラとフーに囲まれている。

俺はここに何をしに来たんだ。


「では、真面目な話をしましょうか。

二人の力を見せてください」


子供たちの力を見せるだと!?

気が抜けていた俺は、タルボットの発言でハッと我に返った。


「フー、君の最大限の力で私に風を放ってください。

どんな形でも構いません」


俺の懸念が現実に!

このままじゃ、追放だ!


「タルボットさん!

待ってください!

フーが放ったかまいたちで山が二つ消えてます!

なので、それをここでやるのは危ないです!」


俺はストップをかける。

当然だ。

この宮殿ごと俺たちが消えてなくなりかねない。

何より俺が一番危惧していた事態になってしまう。


「ユージン、安心してください。

この空間は特別で、いかなる力にも影響を受けません」


「でも!

あなた自身に危険が及びます!

やめてください!」


俺はやめるよう進言する。

タルボットも妖狐さんもキョトンとしている。


「ユージン、知らないのか?」


「え、妖狐さん、何のことですか?」


「百聞は一見にしかず……ですね。

大丈夫。

フー、放ってごらん」


戸惑うフーに、タルボットが放つよう促す。


「大丈夫です。

君たちより長く生きているから『じいじ』なんですよ」


いや長く死んでいるから……ですかね、なんてタルボットは笑っている。

俺は不安だったが、タルボットの自信のある様子から静観することにした。

許可したのはタルボットだ。


フーが俺の方をうかがい見る。

俺は頷いてゴーサインを出す。

許しを得たフーは、禁断の技かまいたちを放つ構えを取る。

そして制御のない攻撃がタルボットめがけて放たれる。


放たれた後は、あまりの速さに目で追うのがやっとだった。

風が空気を切り裂く音が室内に鳴り響き、建物が崩れそうなギギギという軋む音が聞こえる。

最後に、かまいたちが凄まじいスピードでタルボットにぶつかった。

衝撃音がこだまする。


「あはは!

これは素晴らしい才能ですね!

リリィだって、この年頃にこの威力は出せなかった!」


タルボットの高笑いが講堂内部に広がる。


生きていた!!

よくあれだけのかまいたちを受けて平然としていられるな。

さすが大賢者と言ったところだろうか。

ところで、リリィって誰?


「じいじ!

大丈夫!?」


「じいじ!

大丈夫か!?」


フーとソラがタルボットに走り寄る。


「大丈夫ですよ」


二人に無事であることを見せるために、タルボットはその場でくるっと回って見せる。

俺は傷一つない彼を称賛する。


「さすが大賢者ですね……」


「ユージン。

かまいたちを受けてタルボットが何ともないのは、大賢者だからではない」


妖狐さんが、やれやれといった感じで否定する。

カッコつけていたタルボットが、ギクッとする。


「え!?

そうなんですか!?」


「そうだ。

子供は、亡くなった人間の魔力に影響を与えることはできない。

逆に大人が子供に手出しすることもできない。

こういうおきてなのだ」


「え、でも、山と家は無くなりましたよ?」


「あれは人ではなく、物だ」


子供がこの界層に居る大人に攻撃しても平気だが、物はダメージを受けてしまうのか。

だから、ヨーデルの家や鉱山は消し飛んでしまったのか。


「あ、そういえば、ところでリリィってどなたですか?」


「お答えしましょう!

リリィは、私と妖狐さんの娘です!」


俺の質問に喜々ききとして回答するタルボット。


語弊ごへいがあるぞ、それは。

リリィは私が引き受けた子で、二人で育てたのだ」


妖狐さんの返答にちょっとしょんぼりするタルボットの横で、俺は一人納得する。

だから妖狐さんは子供について詳しかったわけだ。

それで、そのリリィさんは今どこにいるのだろうか。


「そうだったんですね!

それでリリィさんは今どちらに?」


「リリィは旅立った。

これについては、また今度話そう。」


旅立った?

生きている時で言えば旅立つとは死の意味もあったが、死後の世界でそれは何を意味するのだろう。


再度尋ねようとしたが、どことなく寂しそうな妖狐さんを見て俺は聞いてはいけないことを聞いてしまったかなと思った。

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