第47話_大賢者タルボット

「ここが中央都市アンジェの宮殿。

タルボットが住む所さ。

色々見学したい気持ちは分かるが、奴も暇ではないのでな」


ソラとフー、それから俺も都会に出てきた田舎者のようにキョロキョロしながら、妖狐さんの横を歩いて行く。

タルボットっていう人が界層主と聞いたときはピンとこなかったが、今なら分かる。

彼はこの界層の王だ。

なんだか、とんでもないことになったな……。


「妖狐さま!

お待ちしておりました!」


白の長いスカートをはいた女性が宮殿の階段上から、妖狐さんに声をかける。


「待たせてしまったか?

すまないね」


「いえ、問題ありません。

すぐに案内できますので、こちらへ」


俺たちは階段を上る。

そこはバルコニーで、部屋に繋がる窓が見える。

だが、窓の様子が変だ。

開いている窓の入り口に、シャボン玉の膜のようなものが張っている。

ただし透明なシャボン玉とは違って、向こう側は見えない。


「では、こちらからどうぞ。

まずは妖狐さま、それからフーさまとソラさま、最後に従者の方の順でお入りください」


あ、俺って従者扱いなのね。

そう思った矢先に妖狐さんが否定する。


「今回はこのユージンが子を引き受けたのだ。

むしろ私が付き添いの者なんだよ」


「それは大変失礼なことを申し上げてしまいました。

でしたら、順番はお気になさらず入ってくださいませ」


「うむ。

そうさせてもらうよ。

私が先に行くから、その後に三人で入っておいで」


妖狐さんはシャボン玉の膜へ一歩踏み出し、そのまま吸い込まれてしまった。

俺たち三人も覚悟を決め、そこへ飛び込む。

目を開くと、教会の中ような広いスペースに出た。


「妖狐ちゃーん!」


「だから、その呼び方はやめい!」


間抜けなデレデレした声が聞こえる。

誰だ?


「ほれ、三人ともこちらへ来て挨拶しなさい」


俺たちは妖狐さんに呼ばれて、そちらへ歩いて行く。

数段上がった所にある玉座に、中年ながらもかっこいい男性が腰かけている。

まさか、あの人が……?


「あ!

妖狐ちゃん、男の部下を付けたの!?

え~!

納得いかないなぁ~」


「たわけ!

こやつが連絡してあったユージンだ!

こっちがフーで、こっちがソラだ」


男性は立ち上がって優雅に階段を下り、俺たちの方へ来る。

そしてソラとフーの前で膝をついて二人に視線を合わせ、二人の手を取る。


「はじめまして。

フーとソラ」


屈んだまま目線を上げて、俺の目を見る。


「そして、ユージン」


優しく微笑む男性。

視線を二人に戻して続ける。


「私はタルボットと言います。

これから困ったことがあったら、何でも私に言ってくださいね」


フーがポソッと言う。


「……タルボットさん?」


タルボットはゆっくり首を横に振った。


「いいえ、私のことは『じいじ』とお呼びください」


はい!?

今『じいじ』って言った!?

え、何?

この人ちょっとネジ緩んじゃってるタイプ!?


「な!?

抜け駆けか!

二人とも、私のことは『ばあば』と呼ぶがいい!」


妖狐さんまでおかしなことを言っている。

もう俺には止められなそうだ。

俺は遠い所を見つめる。


「じいじとばあば?

二人はオレたちのおじいちゃんとおばあちゃんってこと?」


不思議に思ったソラが聞き返す。


「その通りだよ。

私たちは君たちのじいじとばあばだよ」


ここに、じいじとばあばの爆誕である。

ついていけない俺を置いてけぼりにし、この場に居る俺以外の全員が盛り上がっている。

界層主に会う前の俺の緊張を返してほしい。

早く帰りたい。




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