第45話_俺の懸念

「おはようございます。

約束通り朝一番に来ました」


ルックルさんのモーニングコール、いやモーニングベルの雪で目を覚まし、俺は眠そうなソラとフーを引っ張ってきた。

妖狐さん宅ではルックルさんが慌ただしく走り回っている。


「皆様、おはようございます!

早速ですが、ソラさんとフーさんには朝食を取っていただきます。

ユージンさんは着替えです。

さ、さ、こちらへ!」


ソラとフーは食卓のある奥の部屋へ行き、俺は別室へ通される。


「ユージンさんは、そちらのお召し物をご着用ください。

脱いだお召し物は、そちらのかごに。

それでは、わたくしは他の用意がありますので!」


バタバタとルックルさんは出て行ってしまった。

洋服掛けにはアイロンのかかったパンツ、タートルネックセーター、ジャケットが掛かっていた。

全て黒の服だった。

今日は一体何をやる日なんだ?


着替えが済んだ頃に、妖狐さんが現れる。

妖狐さんもいつもより華やかな格好をしている。


「ユージン、おはよう。

なかなか似合っているではないか。

あとは護身用にうちのアクセサリーを着けるといい」


妖狐さんは俺に近寄り、光る石の付いた白銀の二連ネックレスを首にかける。


「おはようございます。

あ、ネックレスありがとうございます。

今日はどこに行くんですか?」


ジャケットにピンブローチを着け終えて、俺を遠目から眺めながら妖狐さんは答える。


「言ってなかったかい?

今日はタルボットに会いに行くんだ。

……うん、いいコーディネートだ」


「タルボット?

誰でしたっけ?」


「大賢者。

界層主とも呼ばれてるね。

お前さんも鏡で見てごらん」


姿見で自身の格好をチェックする。

黒い服に銀のアクセサリーがとてもよく映えている。


「界層主?

それって、すごく偉い人なんじゃ!?」


「そういうことに一応なっている。

だから仕方なく、それ相応の格好をして行く。

面倒くさいがな」


「ソラとフーに関係があるんですか?」


「当然だろう。

二人は全く力をコントロールできていない。

この問題を解決できるのは、神の代行者と繋がっているタルボットだけだからな。

だからタルボットに力の制御方法を聞きに行くのだ」


「神の代行者?」


「うむ。

我々の意思を神に届けてくれる者だ。

今回においては、力の制御方法を伝授する者だな。

さて、もう良いか?

他にも用意があるのでな。

ではな」


バタン。


急な展開についていけない俺を一人残し、扉が閉まる。


えっと、少し整理しよう。

今から界層主である大賢者タルボットに会う。

それで神の代行者から伝授された力の制御方法を聞くと。

こういうことだよな?


俺は大事おおごとだと思い、もう一度鏡を見て身だしなみを確認する。

身だしなみチェックを終えてから、奥で朝食を取っている子供たちと合流した。


食卓に行くと、二人は朝食も終えて、更に着替えまで済んでいた。

恐らくルックルさんがやってくれたのだろう。

さすができる執事である。


フーは薄いすみれ色のワンピースを着ている。

胸元にリボン、裾などにはレースがあしらってある。

なんというか、とてもかわいいのだが、ピアノの発表会を思い出す格好だ。


他方ソラといえば、スーツ。

しかもベストも着ているので、スリーピーススーツだ。

こちらは結婚式に参加する男の子だ。

少しやり過ぎではないだろうか……。

妖狐さんに怒られたくないので、余計なことを言うのは控えておこう。


二人は俺に気付いて寄って来る。


「お兄ちゃんかっこいいね!

私のワンピースもかわいい?」


「見て見て!

オレもかっこいいでしょ!」


「うんうん、二人とも似合うよ」


初めてのおめかしに子供たちは嬉しそうだ。

しかし、俺は彼らに伝えなければいけないことがある。

それは大賢者タルボットに今から面会することだ。

まかり間違ってかまいたちをぶっ放すようなことがあれば、追放だろう。

いや、追放で済めばいい方だ。


「二人とも話が」


「皆様、ご用意はできましたか?

そろそろ出発致しますので、こちらへ!」


俺が子供たちに話を切り出す前に、ルックルさんの呼び出しに遮られてしまった。

再び話をしようにも、二人はもう行ってしまった。

嫌な予感がする。


「ユージンさんもお急ぎくださいませ!」


「は、はい!」


しかし話す機会は与えられないまま、出発となってしまう。

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