第44話_失敗の代償

パタパタと後ろから足音が聞こえたので、振り返るとソラとフーだった。

風呂にでも入ったのだろうか、二人とも身綺麗みぎれいになっていた。


「兄ちゃん! ココア飲んだよ!」


「うん! ココア美味しかった!」


二人とも元気になっていて何よりだ。

しかし今度は、俺に元気がない。


「お兄ちゃん、怒られちゃった?

大丈夫?」


むしろ、これから怒られに行くところです……。

妹に余計な心配をかけるわけにはいかないので、空元気で返事をする。


「いや、大丈夫だよ。

羊飼いさんも、もう怒ってないよ。

ちょっと妖狐さんの所に用事ができたから、一緒に来てくれるか?」


「「はーい!」」


俺はトボトボ歩いて中庭を通り、妖狐さんの邸宅へ。

後ろでは子供たちが、今日の夕飯は何かなと楽しそうに会話をしている。

それに対して俺は、食事なんか喉を通りそうもなかった。

目的地の少し開いている窓に向かって俺は力なく声をかける。


「ユージンです。

二人を連れて来ました」


「入りな」


妖狐さんの声のトーンが低い……怒っている。


「失礼します……」


戸を開けると妖狐さんではなく、ルックルさんが出迎えてくれる。

玄関先で彼の険しい表情を見て、俺はますます青ざめる。


「奥のお部屋で妖狐様がお待ちでいらっしゃいます」


ルックルさんに案内され、奥の部屋に移動する。

妖狐さんは俺と視線を合わせず、ソラとフーに駆け寄って話す。


「怪我はなかったかい?

怖かったね。

二人は、力のコントロールを学ばないといけないよ」


「お勉強するの?」


とフーが言えば、ソラがこう言う。


「えー、勉強なんてやだよー!」


「ソラ、勉強をすればよりたくさん自分の力を使えるようになるぞ?

真の力を出すためには勉強するしかないんだよ。

もっと力を使いたいだろう?」


妖狐さんはソラをたしなめ、頭をなでてやる。

彼はやめてくれと口では言っているが、まんざらでもなさそうだ。


「さ、二人への話はこれでお終いだ。

二人は少し中庭に居ておくれ。

ルックル、よろしく頼む」


「はい、かしこまりました」


二人とルックルさんが邸宅から出て行く。

俺は遠ざかる三人を後方から眺める。


眺めていた俺のあごを銀色の手が掴み、その主の方に向かせる。


「ユージン、お前!

お前という保護者がいながら、我が民の生活を危険にさらすとは……何事だ!」


俺は妖狐さんの圧倒的なまでの凄みに立ちすくんで何も言えない。

そもそも、あごを押さえられた時点で何も言えないのだが。


あごを掴まれてにらまれたまま、しばしの静寂が訪れる。

妖狐さんが、ふぅと息を吐きだす。


「まぁ、だが、初めてで分からないこともあるだろう。

今回は少し大目に見てやるとしよう。

しかしな……我が都市トリコを破壊するようなことは今後一切やらせぬようにしっかり見守るように。

しかるに、今回はこの一発で済ませてやろう」


え?

一発?

どゆこと?


混乱する俺をよそに、妖狐さんは目をつむって集中する。

妖狐さんの目が開いた次の瞬間、俺は脳天にチョップを食らっていた。

あごを押さえられていたせいもあって力はどこにも逃げず、俺は妖狐さんの全力チョップを頭で受け止めるしかなかった。

あごを解放されたが、衝撃がすごすぎてフラフラする。


暴力っていけないんじゃなかったっけ!?

人を傷つけると神から罰を受けて魔力が減らされるんじゃなかった!?

それなのに、妖狐さんはなぜこんな事を!


フラフラの視界と頭でそんなことを思う。

言葉にしようとするがままならない。


「では、二人を呼び戻して夕飯にするかね。

ユージンは椅子に座って休んでいなさい」


妖狐さんはそう言い残し、中庭に行ってしまった。

俺は言われた通り、椅子に座り意識がはっきりするのを待った。


それから妖狐さん、ソラとフー、俺で夕食を取る。

妖狐さんは何事もなかったかのように振る舞うので、チョップの一件には触れないでおいた。

もう痛い思いはごめんだ。


夕飯が終わると、明日の朝一番に三人で邸宅に来るように、と妖狐さんに告げられる。

それを承知し、部屋に戻る。

俺は二人の寝る支度を手伝い、寝床まで連れて行く。

今日はとびきり疲れていたようで、おやすみの挨拶もそこそこに二人はすぐ寝入ってしまった。

俺は一人になり、魔力確認を行う。



『魔力確認』

ユージン

22,182,999


履歴

-10,000 妖狐の憤怒

-1,500 スープ作成

-1,500 サラダ作成

-2,500 パンケーキ作成

(省略)



『妖狐の憤怒』?

なんだこれ?

え、もしかして、チョップされたから?

妖狐さんに殴られると魔力取られちゃうの?

めちゃくちゃ怖いんですけど!

俺の怪人の噂なんか余裕で超えてるでしょ!


俺はもう妖狐さんを怒らせないと心に改めて誓った。

今夜はその誓いを胸に眠りについた。

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