第43話_謝罪と真実

家をどうするか羊飼いが改めて問いただす。


「そのことでございますが、ユージンさん詳しくお話してくださいますか?」


ルックルさんは「失礼します」と一言断りを入れて椅子に座る。

俺は真実を話すべきか迷ったが、混乱させないために嘘を貫く。


「鉱山に到着して、ツルハシを使おうと魔力を込めました。

ただツルハシに魔力を込め過ぎて、鉱山とその奥の山を破壊してしまいました」


「ほう……ツルハシで山を破壊……」


にわかに信じがたいと言うように、ルックルさんは俺が言ったことを繰り返す。


「そうなんだよ!

そのせいで俺の家が消えてなくなっちゃたんだよ!」


羊飼いが必死の訴えをする。

それを見たルックルが立ち上がり、腰を折り深々とお辞儀をして謝罪を述べる。


「この度は我々シルバーフォックスの者が多大なご迷惑をおかけし、心から申し訳なく存じ上げます」


俺もおそばせながら立ち上がり、ルックルさんにならって深く頭を下げる。


「申し訳ありませんでした!」


しばらくの沈黙の後、羊飼いは口を開く。


「……わかったよ。

謝罪は受け入れる。

ただ家はどうにかしてもらうからな!」


「もちろんでございます。

家についてはシルバーフォックスが責任を持って補償させていただきます。

わたくしはルックルと申します。

今後はわたくしを窓口としていただき、お話を進めてまいります。

おっと、お茶も出さず、申し訳ございません。

今ご用意致しますので、少々お待ちください」


ベルでお茶を用意するようにことづけ、すぐにお茶とお茶請けが運ばれる。

その後ルックルさんは部屋の本棚からいくつか冊子を取り出すと、羊飼いが座るソファ前にあるローテーブルに並べる。


「こちらは家のカタログでございます。

時に羊飼い様、お名前は何とおっしゃるのでしょうか?」


「ん?

ああ、ヨーデルだ。

よろしくな、ルックルさん」


お茶請けをボリボリ食べながら名乗る羊飼いヨーデル。


「ヨーデル様、よろしくお願い申し上げます。

それでは他の資料もお持ち致しますので、一度退室致します。

お待ちくださいませ」


ルックルさんは謝った後から立ちっぱなしの俺に近付いて、


「ユージンさんも退出しましょう」


と小声で優しく言葉をかけてくれた。

黙って立ち去るのも気が引けたので、ヨーデルに声をかける。


「ヨーデルさん、この度は本当に申し訳ありませんでした」


頭を下げる俺にヨーデルはこちらを見ずに言う。


「うん、もういいから。

新しく家がもらえるなら、それでいい。

じゃあな」


ヨーデルはカタログに夢中だ。

「うはー! どれにしようかなぁ~!」とか言っている。

妖狐さんに会う目的のことは、すっかり忘れたみたいだ。

もう大丈夫だと判断し、俺は部屋を出る。


出たと同時に、待ち構えていたルックルさんに問い詰められる。


「ユージンさん、本当は何があったのですか?」


目が笑っていない。

やっぱり嘘だとバレていたのか。


「あ、やっぱり嘘だって分かっちゃいましたか……」


「当たり前です。

ツルハシに魔力を込めた形跡がありません。

魔力を込めるとシルバーフォックスの印が出ますが、このツルハシには何も出ておりません」


なるほど。

それでシルバーフォックスの印が出ていないとヨーデルが騒いでいたのか。


「そ、れ、で?

何があったのですか?」


「実は……ソラとフーを人気のない鉱山で自由に遊ばせてやったところ、フーの放ったかまいたちで鉱山とその後ろの山がぶっ飛びまして……」


「はい!?」


「え、あ、その、フーが発射した強力な風で山が消し飛びました……」


ルックルさんは頭を抱える。


「はぁ、かまいたちは分かります。

まさかそんな事態が起きてしまうとは……。

すぐにソラさんとフーさんを連れ、妖狐様にお会いしてください。

あらましはお伝えしておきますので」


俺に伝えるや否や、ルックルさんは中央階段を下りて行ってしまった。

今回の仕事が相当な失敗だと自覚するのに時間はかからなかった。


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