第41話_失敗

「なぁ、どうしてくれんの!?

俺がコツコツコツコツコツコツコツコツ貯めた魔力で建てた家なんですけどぉぉ!?」


コツコツ言うたびに羊飼いの頭が左右に揺れる。

目は怒りを通り越して、ヤバい奴のそれだった。

さっき道を教えてくれた物静かな羊飼いとは同一人物と思えない。


「申し訳ありません」


俺は謝罪を口にしたが、それくらいで彼の怒りが収まるわけもない。


「謝って俺の家が返ってくるわけ!?

俺の家を返せ!

弁償しろ!」


怒りを露わにした半泣きの羊飼いが俺に迫る。


「だいたいなんで俺の家が吹き飛んでるわけ!?

どこに行っちゃったのさ!?」


羊飼いになぜと聞かれ、俺の後ろにいたフーがオロオロと動揺する。

ソラも責任の一端は自分にもあると思っているのか、目が泳いでいる。

俺は子供たちに怒りの矛先が向くのは良くないと考え、俺がやったことにする。


「そ、それは、この俺が悪いんです。

シルバーフォックスから預かったツルハシで鉱石を掘っていたのですが、魔力を込め過ぎてしまって……」


俺はリュックからツルハシを取り出す。

相手はシルバーフォックスの名にピクリと反応する。


「あんたシルバーフォックスの人間なのか?

ちょっとそのツルハシ見せてみろ!」


俺はツルハシを羊飼いに渡す。

羊飼いはそれを隅から隅までじっくりと見回す。

そして怒りに満ちた目をまたこちらに向けて叫ぶ。


「嘘つけ!

どこにもシルバーフォックスの印がないじゃないか!

あんた本当にシルバーフォックスの者なのか!?

その名前を出せば、逃げられると思ったか!」


「い、いや、そんなことはなくて……」


「逃がしやしねぇぞぉ!

どこまでも追いかけてやる!

シルバーフォックスの人間なら、賢者様に会わせろ!!

どうだ、できないんだろう!!

この嘘つきが!!」


ギャンギャンえる羊飼いをここに置いて行くことはできなそうだと悟り、俺は諦めて羊飼いを連れてシルバーフォックスに戻ることにした。


「分かりました……妖狐さんに会っていただければ納得していただけますか?

それから家のことを話し合いましょう」


「ふん!

口先だけのくせに!

逃げようたってそうはいかないからな!

このツルハシは俺が預かっておく!

さあ! 行くぞ!」


ため息交じりの呼吸をして、俺はソラとフーの手を取り進む。

後ろでは羊飼いがジィッとにらみを利かせながら後を追ってくる。


俺は歩きながら、フーの砂ぼこりで白くなった顔を自分の袖で拭いてやる。

とても不安そうな顔だ。

それもそのはずだ。

かまいたちの破壊力が格段にパワーアップしていたのだから。

そのせいで鉱山を破壊し、人の家まで消し飛ばしたのだ。

そりゃ不安にもなる……。

俺が軽率に許可してしまったのも良くなかった。


一方ソラを見れば、さっきから強ばった顔のまま固まっている。

あのかまいたちを真正面から受けたのだ。

恐ろしかっただろう。

それに自分たちの遊びのせいで羊飼いに怒鳴られたのも、怖かったのだろう。

禁じられた遊びが原因ではあったが、俺は二人に怖い思いをさせてしまったことを反省した。

後ろの羊飼いに聞こえないように、俺はこっそりと二人に耳打ちする。


「二人とも、家に戻ったらルックルさんに美味しいココアを飲ませてもらおう。

な?」


気休めかもしれないが、先の楽しいことを話して二人の気持ちが少しでも和らいでほしかった。

二人は少し顔が緩んで頷いた。


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