第39話_鉱石掘りの下準備

俺たちは仕事を始めるシルビアと別れて、開店前の店員を邪魔しないように静かに部屋へ戻る。

俺たちが間借りしている部屋の前に誰かいる。

こちらに向かってピシッと立っている。


「お待ちしておりました」


屋敷に来たばかりだった俺を案内してくれた使用人さんだ。


「あ、お久しぶりです!」


「ご無沙汰しております。

おや、そちらは噂のフーさんとソラさんでいらっしゃいますね?

わたくしは、この屋敷の執事ルックルと申します。

以後お見知りおきを」


「こんにちは、ルックルさん」


「ルックルさん、こんにちは!」


子供たちは執事に元気よく挨拶をする。

俺はルックルさんが発した言葉が気になった。


「二人のことが噂になっているんですか?」


「はい。

この界層に子供はおりませんので、珍しいのです。

お気に触ってしまったのなら、申し訳ございません」


「え、いやいや!

そんなことはないです!

というか、子供っていないんですね」


「さようでございます。

それでは、鉱石掘りについてのお話とご用意を致しますのでお部屋にどうぞ」


二人を連れて入ろうと思ったが、近くにいない。

周辺を見回すと、廊下の花瓶を触ろうとしていた。


「……二人とも?

何してるのかな?

勝手に人の物を触らないって言ったよな?」


二人はビクッとする。

昨日のデジャヴか。


「もういいから、こっち来なさい」


俺が呼び寄せると、二人は慌ててこちらへ走ってきた。

部屋に戻り、俺は二人に歯磨きをするように言いつける。

その間にルックルさんから説明を聞く。


「それでは鉱石掘りについてご説明致します。

本来でございましたら冒険者組合まで出向いていただくのですが、今回は妖狐様の計らいにより本日はこちらで説明などを行います」


妖狐さんが言っていた『手筈てはずはもう整えてある』とは、この事だったか。

俺は手短に「わかりました」とルックルさんに伝える。

向かいに座る彼は俺の返事を聞き、鉱石掘りの説明に入る。


「ここから東へ一時間ほど歩いた所に鉱山がございます。

そちらの鉱山で数種類の宝石の原石が手に入ります。

その原石をいくつか持ち帰って欲しいのです」


「俺、宝石の原石なんて見たことなくて分からないのですが……」


「そのための道具をお貸し致しますので、ご安心ください」


柔らかい笑みをたたえ、ルックルさんは懐から開口部の大きい巾着を取り出した。

その飾り気のない巾着から彼は小型のツルハシを出す。

俺は確かに見た。

巾着のサイズよりも明らかに大きいツルハシが出てくるのを。

どうなってんだ……。


「この巾着には魔力を注いでおりますので、実際の容量よりもたくさん入るのですよ」


彼の話で俺は思い出した。

コーヒー屋ヘイブンさんが、かばんに魔力を込めると見た目以上に物が入ると言っていたことを。

俺が理解したところで、ルックルさんは話を続ける。


「このツルハシがお貸しする道具でございます。

こちらに魔力を注いでください。

すると原石に近づけば近づくほど、このツルハシが強く光を発します。

またツルハシで原石に触れますと音が鳴ります。

それを目安に原石を集めてくださいませ」


ルックルさんが持っていたツルハシを渡される。

それから軍手や地図などを渡された。


「今からのご出発ですと、発見できる原石は多くても十個がせいぜいだと思いますので、ご無理をなさらずお願い致します。

ピクニックだと思って気楽にお出かけくださいませ」


ルックルさんは俺たち三人分のお弁当と水筒を渡して、ひとつ言い添える。


「誠に勝手ながら、ユージンさんのリュックに魔力を注いで拡張させていただきました」


試しに俺は渡された物をマッシモお手製リュックに詰めてみる。

ツルハシから水筒まで難なく入ってしまった。


「おお! すごい!

何から何まですみません。

ソラ! フー! 出発するぞー!」


「はーい!」


「今行くー!」


「外が冷える時期になってきております。

どうぞマントをお使いください」


ルックルさんは俺にマントを手渡し、子供二人には丁寧にマントを装着してやる。


「ルックルさん、ありがとう!」


「いってきます!」


「はい。

お気を付けて。

いってらっしゃいませ」



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