第38話_まるで魔法じゃない

「じゃあ、本物じゃないってことだよね!」


言ったソラの顔が、パァッと笑顔になる。

フーもホッとした様子だ。


「でも、次から気を付けること」


妖狐さんは、二人に注意を呼び掛けた。


「「はい……」」


二人はしょんぼりと声を合わせて返事をする。

妖狐さんはその返事を聞くと、キッチンへと向かいコップを五つ持ってきてテーブルに並べた。

そして、なんと何もない所からコップにジュースを出現させたのだ。


「えっ!?

な、な、なにもない所からジュースが!!」


俺の異様な驚愕ぶりに不審な顔をした妖狐さんだったが、間を置いて納得の面持ちで俺に指摘する。


「さては無から物を作り出せることを知らなかったな?」


「無から物が作れるんですか……?」


「うむ。

魔力は消費するが、自分が想像できる物なら何でも生み出すことができる。

ただ品質としては、手で作った物の方が優れていることが多い」


まるで魔法じゃないか……。

俺は無敵になった気分だった。


「分かったところで、食事にしよう。

子供たちは睡眠を取らなければいけないように、食事もしなくてはいけない。

では、食事を準備しよう」


「俺にやらせてください!」


俺は食事を作り出そうとする妖狐さんを止め、食事作りに名乗り出る。


「そうだな、やってみるといい。

出したい物を想像して念じるだけだ」


妖狐さんも快諾してくれたので、俺は教わった通り実行してみる。

まずは朝食らしくパンケーキを生み出そうと思う。

俺はフワフワのパンケーキを想像して、念じる。


ボトッ!


パンケーキが一枚現れた!

だが、俺はうっかり皿を想像し忘れた。

テーブルに直置きでパンケーキがホカホカしている。


「ユージンは皿を使わないのか」


妖狐さんにも呆れられてしまった。

俺は早急に皿やカラトリーをお借りし、直置きだったパンケーキを皿に移す。

同じミスをしないように、俺は慎重に朝食を皿に生み出す。

出来上がったのは、パンケーキ、サラダ、温かいスープ、それから妖狐さんが作り出したジュースだ。

ソラ、フー、俺、妖狐さん、シルビアの五人分だ。

なんとも現代的な朝食だ。

ソラとフーは意気消沈なんてどこかに行ってしまったように、食事に目を輝かせている。


シルビアは作業をしているようなので、俺たちは着席して先に食事を始める。

食事を始めると妖狐さんが再び話し始める。


「ユージン、小耳に挟んだが、冒険者組合でうちの仕事を受けたらしいじゃないか」


すっかり忘れていたが、オハナから紹介された初回限定の鉱石掘りの仕事だ。

にしても、妖狐さんは何でも知っているな。

俺はパンケーキをジュースで喉に流し、返事をする。


「はい、鉱石掘りの仕事を受けました」


「今日二人を連れて行ってみたらどうだ?

手筈てはずはもう整えてある」


俺はこの屋敷に軟禁状態だったのだが、妖狐さんから外出の許可が出された。

想定外の提案に驚く俺。

その表情を見た妖狐さんは、俺に分かるように軟禁解除の理由を話す。


「お前さんから目を離さなかったのは、子供たちがいつ誕生しても対処できるようにするためさ。

誕生した後なら、混乱することもなかろうし、外出しても構わん」


「じゃあ、有難く外出させてもらいます」


「うむ。

励むがいい」


話が落ち着いたタイミングで、シルビアがようやく俺たちが居る奥の部屋にやって来る。


「わぁー!

朝ごはん久しぶり!

いただきまーす!!」


子供たちと同じくらい一心不乱に朝食を口に頬張るシルビア。

少し腹が膨れて、目の前に座る子供たちに気が付いた。


「そういえば、ユージン!

この子達は誰なの?」


忘れたんかい! とツッコミたくなる。

妖狐さんに説明させるわけにもいかず、俺が朝食を食べながら今までのことを話してやった。

シルビアは終始オーバーリアクションで叫び続けていた。


一通り話を終える頃には、みんな朝食を食べ終わっていた。

そろそろお店が始まるということもあり、解散することになった。

邸宅を出ようと思ったところで、妖狐さんに呼び止められる。


「ユージン、後でちゃんと魔力確認するんだよ。

恐らく神から二人を育てるための魔力が与えられていると思う。

それと毎月小口こぐちの魔力が与えられるはずだ。

ではな。

鉱石掘り頑張るように」


バタン。


扉を閉められる。


って、帰り際にすんごい重要な話!!

俺は焦ってすぐに魔力確認を行う。



『魔力確認』

ユージン

22,192,999


履歴

-1,500 スープ作成

-1,500 サラダ作成

-2,500 パンケーキ作成

+200,000 神の恵み

+2,000,000 神の祝福

(省略)



増えてる……。

「神の祝福」と「神の恵み」が新たに履歴に加わっている。

これが妖狐さんの言っていた二人を育てるために与えられた神からの魔力だよな。

「神の祝福」が200万。

「神の恵み」の方が20万。

後者の方が少ないから、こっちが月々与えられる魔力なのだろうか。

「神の祝福」が祝い金で、「神の恵み」が養育費みたいなものだろうか。


ん……?

待てよ……?

毎日の食費を考えるとギリギリ?

だってパンケーキ五人分作っただけで、2,500だろ。

一人分の朝食代が1,100!?

その他必要経費を考えると赤字?


まるで魔法じゃない。

全くもってリアルだ。

働かねば。

俺に子育ての重責がドーンとのしかかる。


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