第37話_やらかしの結末

「冷たっ!」


俺は冷たさで目覚める。

というのも、俺に雪が降り注いでいた。


「ユージン、二人を連れて私の所に来なさい」


妖狐さんの声でそれだけ言われると、雪はパァッと消えてしまった。

一瞬にして脳が回転を始める。


……こ、これは昨日の一件についてだ。

怒ってるよなぁ……まずい。


冷や汗が吹き出る。

早く用意して行かなければ。

モタモタして更に怒らせてはいけない。

早く用意せねば。


ソラとフーを起こそうとしたが、二人ともすでに目が覚めていた。


「お兄ちゃん、おはよう」


「おはよう。

兄ちゃん、今の何?」


「昨日アクセサリーを壊しただろ……それで妖狐さんが俺たちを呼んでるんだよ」


「げっ!

妖狐さん怒ってるのかな?」


「たぶんな……分かったら、さっさと用意するぞ!」


ソラがバタバタと洗面台へ向かう。

一方、フーはベッドの上で微動だにしていない。


「フー?

どうした?

大丈夫か?」


「妖狐さん怒ってるよね……どうしよう」


フーは涙ぐんだ目で俺を見る。

どうやら怒らせてしまったと思って動揺しているようだ。


「大丈夫だよ。

俺も一緒に謝ってやるから。

心配するな」


フーはこくんと頷き、不安な面持ちではあったが用意を始めた。

俺も二人の様子を見ながら、朝の準備を進めた。


それから結局二十分もかかって、ようやく全員の用意が終わった。

フーの寝ぐせで凄まじく、それを櫛できれいにしてやるのに五分。

ソラが慌てたせいで転び顔面を地面に打ちつけて、泣き止ませて落ち着かせるのに五分。

部屋にはソラとフーそれぞれの洋服が用意されていたが、途中で二人が着ている服が逆であるのに気付き着替え直させ、着替えが完了するのに十分。

俺は身だしなみをチェックする暇もなく、部屋を飛び出した。


中央階段の上まで来たところで、俺は二人に注意をする。


「いいか、下にあるショーケースには絶対に触るなよ!」


「ショーケースって、昨日見たきれいなのが入ってるやつ?」


ショーケースが分からなかったソラが尋ねる。


「そうだ。

触っちゃダメだ。

それとあれの近くを通る時は走らずゆっくりだ」


二人はわかったと返事をして、ショーケースに触らないでゆっくり歩いている。

俺たちは無事にロビーを通り抜け、花が美しく咲いている中庭に差し掛かる。


「うわぁ、きれい!」


落ち込んでいたように見えたフーが、色鮮やかな花々を見て声をあげる。

その声に反応してシルビアがひょっこりと庭から顔を出す。

驚いたソラとフーは俺の後ろに隠れる。


「え、だぁれ?」


「おう、シルビア、おはよう」


「あ、ユージン、おはよー!

その子たちだぁれ?」


「えっと、ソラとフーだ」


「ええ!?

ソラとフーって、ユージンが連れてた光だよね!?

ど、ど、どういうことぉ!?」


「話せば長くなる……ちょっと妖狐さんに呼ばれてるから、後でな!」


俺はシルビアの横を通り抜け、彼女を振り切る。


「え? え?

妖狐さんになんで呼ばれてるの?」


俺の背から再び質問を投げかけるシルビア。


「いや、その……昨日ロビーの商品を壊したんだ……!」


答えないわけにもいかず、半ばヤケクソで返事をする俺。


「えええええ!!

嘘でしょ!?

あ、あの妖狐さんの商品を!?」


「とにかく急いでるから、後でな!

ソラとフー行くぞ!」


「え、なになに!

気になることばっかりなんだけど!

私も一緒に行くー!」


俺はクーとフーの手を取り急ぎ足で歩くが、シルビアは諦めずに後を追ってくる。

厄介な奴がついて来てしまった……。


結局四人で妖狐さんの邸宅へやって来た。

例のごとくシルビアが妖狐さんに入室許可を得るために大声をあげる。

その後に、俺と子供二人も来たということを配慮した音量で言い添える。


「お入り」


妖狐さんは奥の部屋にいた。

シルビアが刈り取った花……いや、草を渡す。


「兄ちゃん、なんであの人草を渡してるの?」


「ソラ……それは俺にも分からない」


俺とソラがこそこそと話をしている間にシルビアはいなくなり、妖狐さんがこちらに向き直る。

俺はハッとして姿勢を正す。


「でだ。

商品を壊してしまったんだね」


「ご、ごめんなさい!」


真っ先にソラが謝る。


「妖狐さんごめんなさぃ……うぅ……」


フーが半泣きで謝る。


「妖狐さん、俺がついていながらすみません!」


最後に俺が頭を下げる。

妖狐さんは、泣いているフーと怯えているソラの肩に手をかけて微笑む。


「気にするな。

あれはレプリカだ」



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