第35話_正体

「まずは金の池の周りに飛んでいる光について教えよう。

ユージン、あの光は何だと思う?」


「なんでしょう……自然霊とか精霊とかですか?」


「なるほど、そう考える者は多い。

だがね、あれは違う。

あの光は、子供なのだ。

人間界で生を受けられなかった子供たちだ」


ということは、ソラとフーも生まれることができなかった子供……。

それだけじゃない。

金の池源泉にたくさんいた光は全て……。


「誕生できなかったことが、幸か不幸かは分からない。

だから、そんなに動揺せずとも大丈夫だ。

それにあの子たちがずっと金の池に居るとも限らないからね」


「そ、そうですね……」


「お兄ちゃん」


今まで静かにココアを飲んでいた女の子のフーが俺を呼ぶ。


「金の池は楽しい所だよ」


フーが可愛らしい顔で笑う。

妖狐さんが、いい子だねと彼女の頭をなでる。


「そっか、そうだよな」


妖狐さんの言う通り、人間界で誕生できなかったから不幸かと言えば違うよな。

俺はココアを口に含み、一呼吸置く。


「話を続けてください」


「うむ。

次になぜ光が子供になったのか、だな。

ユージン、ソラとフーに魔力をあげたことは?

恐らくそれがきっかけだと思うのだが」


「あります」


「ユージンはどの程度与えた?

大量に与えたのではないか?」


「思い当たります」


俺が金の池で限界を迎えていた時に救ってくれたソラとフー。

そのお礼として俺はかなりの魔力を分け与えた。


「魔力をある一定量与えると人間の子供になる……と言われている。

厳密な量は分かっていない。

何より、光を子供にさせるための条件は魔力だけじゃない」


「なぁ! ココア飲み終わっちゃったよー!」


ソラが話の腰を折る。


「くく、じゃあ、ココアとお菓子も用意しようか。

少し待っていなさい」


妖狐さんは嬉しそうに笑いながら、キッチンに消える。

その後ろ姿を見ながら、なぜ妖狐さんがこんなにも詳しいのか不思議に思う俺がいた。

全てに精通しているから賢者なのだろうか。

よく分からない。


「さぁ、お食べ」


妖狐さんがテーブルに出したお菓子は、子供が好きなクッキーやらチョコレートだった。

まぁ、俺も好きなんだけど。

二人は夢中で口に頬張る。

妹や弟が小さかった頃、こんな風に一生懸命食べていたな……と、俺は昔に戻ったような気分になる。


「さて、続きを話そうか。

光を子供にする条件なんだが、二点ある。

一つは、先ほど話した大量の魔力を分け与えること。

もう一つが神に選ばれるということ。

というのも、どうも大量に魔力を与えれば、誰でも子供を引き受けられるというわけではないらしい。

神が子を大事にしてくれる人物を選んでいると考えられている。

実は、これも推測の域を出ないんだが」


「え、俺が選ばれたってことですか?」


俺が神に選ばれるなんて驚きしかない。


「そうであるかもしれないし、そうでないかもしれない。

ユージンは死後に女神様の説明を受けていないと聞いたが、それは真か?」


「はい、本当です」


子供を引き受けた事と説明がなかった事が、どう関係あるのだろうかと俺は疑問に思う。


「だとすれば、この子らは神のお詫びなのかもしれん。

ユージンに起きたことは異例だから、これも推測でしかないがな」


「詫び!?」


神が俺に謝ってる!?

俺にこの二人を託すから、説明を忘れちゃったの許してねってことか!?


「くくく。

そう驚くでない。

ともかくユージンが神に選ばれ、子を二人も任されたのは事実だ」


「お、おれ、どうしたらいいですか!?

子供を育てたことなんてないですよ!」


パニック。

しがない俺が、つい最近まで野宿してた俺が、怪人と呼ばれてた俺が、子供を育てる!?

頭を抱える俺。


「あはは、兄ちゃん、大丈夫か?」


ソラが呑気のんきに俺を見て笑う。


「くく、まぁ、笑ってやるな。

最初は驚くものだ。

しかし、想像以上に衝撃を受けているようだな。くくく」


妖狐さんまで面白がって笑ってる……。

俺はテーブルにす。


「お、おれには荷が重いですよぉぉぉ」


「お兄ちゃん、大丈夫?」


フーだけは笑わず心配してくれている。

しかし年端としはのいかない女の子に心配される俺、情けない。


「心配するな。

私が手助けしよう。

そのためにお前さんをこの屋敷に呼んだのだ」


本当に妖狐さんは何でもお見通しだ。


「よろしくお願いします……」


「うむ。

今日はこの辺にしておこう。

実はたくされた子供は、我々と違い眠らなくてはいけないのだ。

もうそろそろ寝た方がいい。

使いの者に準備させよう」


そう言うと、俺の部屋にも置いてあった雪の模様が入ったベルをチリリンと鳴らす。


「事前に用意しておくように言った子供二人分一式をユージンの部屋に運んでおくように」


言い終わると、空中に散らばった言葉が凍ったかのように雪となり、どこかへ舞って行った。

あのベルは、ああやって使うのか。

俺は一人で納得した。


「さ、二人はしっかり歯も磨いて寝るんだよ、いいね」


「「はーい!」」


妖狐さんの言いつけに素直に返事をした二人と俺は、おやすみの挨拶を交わして邸宅を後にする。


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