第34話_誕生

光の爆発で、俺は耳まで遠くなってしまったようだ。

だって遠くから誰かが俺の名を呼んでいる。


「……ユー」

「……ユージン」


妖狐さんか誰かが来てくれたのだろうか。


「ないね……」

「違う呼び方……」


誰か分からないが、二人居る。

目を開けるが、光にやられて何も見えない。


「お兄ちゃん」

「兄ちゃん」


確かに子供の声で俺をと呼んだ。

誰だ。

ひざまずきながら、うっすら見えてきた目で声のする方を見る。

そこには白い服を着た二人の子供が俺を覗き込んでいる。


「お兄ちゃん、目を覚ましたね! よかった!」

「兄ちゃん、大丈夫?」


俺はこの子たちを知らない。


「誰……だ?」


俺は見えにくい目をしばしばと瞬きしながら、聞く。


「フーだよ」

「ソラだよ」


まさかの返答に俺は動きが止まる。

光が子供になった?

どういうことだ?

理解できずにパニックになっていると、何者かが近付く気配がする。

先ほどの爆発的な光であれば、誰かが気が付いて来てもおかしくない。

視線を上げると、二人の子供の背後に立っていたのは妖狐さんだった。


「そろそろだと思っていたよ」


妖狐さんは物知り顔でこちらを見ている。


「妖狐さん、これは一体どういうことなんでしょうか……?」


「ソラとフーだったね、初めまして。

色々と話したいことがあるから、私の部屋に来なさい。

ユージン、大丈夫か?」


妖狐さんは、まだ立てずにいる俺に手を差し伸べ立たせてくれた。

そして彼女は子供たちの背に手をそっと置いて、二人を連れ自身の邸宅へ向かう。

俺もフラフラと後を追った。


邸宅内、一番奥の部屋へ案内してもらう。

そこはダイニングテーブルとイスがあり、優しい灯りが温かい色で染めている。

妖狐さんは、俺たちをイスに座らせるとお茶を用意してくれた。


「ソラとフーは甘いのがいいね。

ココアにしようか。

ユージンはコーヒーか?」


「あ、俺もココアがいいです」


俺はこの事態を飲み込めず混乱していた。

だから、甘い物を飲んで少しでも落ち着きたかった。


「そうか。

では、少し待っていろ」


妖狐さんは隣にあるキッチンへ向かう。

部屋にはソラとフーとされる子供たちと俺だけになってしまった。

一人は薄いピンク色の髪を肩まで伸ばした色白な女の子。

もう一人が、短髪で派手なオレンジの髪色をした活発そうな男の子だった。

男女ではあったが、二人はよく似ていた。

たぶん血の繋がりがあるのだろう。


「えっと、どっちがソラで、どっちがフーなんだっけ?」


俺はおずおずと聞いてみる。


「ソラは、オレだよ!」

「私がフー!」


「女の子の方がフーで、男の子の方がソラだな」


「そうだよ!」

「うん!」


元気がいい。

見たところ十歳か、それよりも幼いかもしれない。

聞きたいことが多すぎて、何から聞けばいいのか悩む。

しかし、まずは確認だ。


「君たちは俺に付いてた光なのか?」


「そうだよ! 兄ちゃんの近くにずっといたよ!」


「そうなの! お店屋さん楽しかったね!

でもお兄ちゃん怖がられててかわいそうだった……」


お店屋さん……?

返品で巡った店のことかな?

この子は、俺が怖がられていたのを知ってる。

俺のそばにいないと知らないことだよな。

どうやら本当に俺と一緒にいた二つの光のようだ。

うーん……と悩む俺に妖狐さんが声をかける。


「疑問でいっぱいという顔だな。

その疑問を私が解いてやろう。

ま、その前にココアでも飲むといい」


妖狐さんは温かいココアを俺たちの前に置いた。


「熱いから気を付けて飲むんだよ」


優しい口調でソラとフーに注意する妖狐さん。

二人の子は、ホワホワと湯気の出る飲み物を珍しそうに見つめる。

男の子のソラが先に一口飲む。


「あっちぃっ!!」


「だ、だいじょうぶかっ!?

ちゃんとフーフーするんだ!」


「あちち。

うん、わかった、兄ちゃん」


今度はカップを口元に寄せて俺が言った通りに息を吹きかけてから、すするようにゆっくり飲む。


「なんだこれ! うまい!!」


ソラが目をキラキラさせて言う。

それを見た女の子のフーも息を吹きかけてから飲む。


「……おいしぃ……」


どうやら感動しているようだ。


「お気に召してもらえてよかったよ。

じゃあ、改めて。

私は妖狐と言うよ。

よろしく」


「妖狐さん、よろしくお願いします!」


「お願いしまぁす!」


二人は妖狐さんにきちんと挨拶をする。


「では、早速ユージンの疑問に答えていこうかね。

まずどうして金の池の周りに飛ぶ光が子供になったか……だね?」



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