第33話_光の爆発

妖狐さんと立ち並んでしばらく歩き、目的地であった金の池へ到着する。

後で合流しようと妖狐さんに提案され、俺は心置きなく家族の様子を金の池で眺める。

こういう心遣いも賢者と言われる所以ゆえんなのだろう。


俺はソラとフーを自由にしてやってから、いつものベンチへ腰かける。

家族の姿を確かめる余裕が最近はなかったため、とても気になっていた。

早速一人ずつ順番に様子を見ていく。


まずは次男。

彼は社会人になってから、とても落ち着いて大人になった。

今朝もキビキビと働いている。

俺が亡くなった直後にあった険しさはなく、穏やかだ。


次に垣間見た長女に異変があった。

顔色が悪く寝込んでいて、時折トイレへ駆け込む。

どうしたのだろう。

体調が悪いのだろうか。

心配だ。

後でもう一度様子を見よう。


それから次女。

常に元気いっぱいなのが彼女。

元気がない時でも空元気で頑張ってしまう子なのだ。

果たして今日は?

あぁ、空元気ではなく普段通りの元気いっぱいな次女だ。

安心した。


三男はまた部屋にこもってはいないだろうか。

心配しながら様子を見ると、また部屋にいる!

やはり俺の事が恋しくて……あ、あれ? 違うな?

部屋で仕事をしているようだ。

リモートワークってやつか?

とにかくふさぎこんでなくてよかった。


三女は学校かな。

これから授業が始まろうとしているところだった。

昼食後の授業で、三女の顔は眠気に負け死んでいる。

いつも通りといったところだろうか。


最後に両親。

二人とも仕事だ。

しかし俺が亡くなったすぐ後と比べると幾分いくぶんか晴れやかな表情であった。

……よかった。


俺は心配な長女に戻る。

ちょうど旦那さんからスマホに通知が来ていた。

失礼して俺も一緒に読ませてもらう。


『体調は大丈夫? つわりが辛いようなら無理せずにね』


はっ! つわりか!

そうか……子供を産むって大変なんだな……俺、何も知らなかったよ。

何もしてやれない自分がもどかしい。


俺が肩を落としていると、後ろから不意に声をかけられた。


「ユージン、大丈夫か?」


「あ! 妖狐さん!

実は家族がちょっと辛そうで……」


「ならば、いいことを教えてやろう」


妖狐さんは近くにあった小石をヒョイと拾い、俺に渡す。


「その石に魔力を1マリだけ込めるよう念じるがいい。

そして、石を池に投げろ。

そうすることで、その人をわずかだが守れる。

1マリ以上は返却されてしまうから無意味だぞ」


願いを込めたコインを泉に投げるみたいなものだろうか。


「私は出口で待っているから、終わったら来るように」


俺は妖狐さんの後ろ姿にお礼を言い、早速魔力を石に注ぎ投げてみる。


長女が写った金の池にポチャと石を投げ込む。

するとさざ波が立ち、波紋が広がる。

スーッと波紋が消え、長女の顔が再度映し出される。


長女は旦那さんに返事をするところだった。


『さっきまで辛かったけど、今は少し楽になったから大丈夫だよ』


どうやら俺の投げ石の効果はあったらしい。


俺はソラとフーを呼び戻し、妖狐さんと共にシルバーフォックスへ帰った。

あてがわれた部屋に戻るが、やることがない。

仕方ないので、風呂に入る。

風が冷たかったせいか体が冷えている。

俺は冷えた体を風呂で温めながら、バスタブ上に備え付けられたシャワーヘッドを見つめる。


やっぱり洗い場は別だよな……。


風呂に違和感を覚えつつ、湯船から出て体を拭く。

俺は湯冷ましに、バルコニーの窓を開け放つ。

風呂で熱くなった体に夜風が気持ちいい。

もうお店も終わったようで、昨日同様明かりが消えている。

今日は中庭にソラとフーを連れて行ってみようか。

昨日はシルビアと鉢合わせして行けなかったからな。

俺はウォークインクローゼットからガウンを取り出して羽織り、部屋を出る。


中央階段上まで来るが、今日はロビーの明かりが消えている。

シルビアも帰ったのだろうか。

また後ろから突然シルビアに声をかけられないように、念のため辺りを見回す。

確実に人がいないことを確かめてから、階段を下る。

そして、その足で中庭へ向かう。


中庭で緑に囲まれるのは落ち着く。

何よりソラとフーの光で浮かびあがる中庭の情景が綺麗だった。

二つの光は俺の周りをくるくると回っている。

今日は何故か俺から離れない。


「今日は甘えん坊さんだな……ん?

ソラとフー……なんか光がいつもより強くないか!?」


たちまちのうちに、二つの光が物凄い勢いでチカチカきらめきだす。

今までにない光り方だ。


「くっ!!

ま、まぶしい!

一体どうしたんだ!?」


その光は徐々に大きくなっていく。

しかし一転、光が収縮する。

束の間の静寂。

直後、その光が爆発するように大きく光を放った。

俺は昼の太陽を直接見てしまったようなまぶしさで、目の前が見えなくなる。

思わず立っていられなくなり、地面にひざまずく。


一体何が起きたんだ!?

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