第32話_名誉の挽回

翌朝。

俺は約束通り、シルビアの花摘みとカーテン開けを手伝った。

今日は昨日とは違い、シルビアが指先を怪我することもなく、俺の頭も無事だ。

まぁ……俺がハサミを使って花を摘もうとしたら「私もやりたい」とシルビアが騒ぎ出したが、それ以外はスムーズだった。

そうして妖狐さんの邸宅にやって来た俺たち。


シルビアが昨日のように大声で入室許可をう。


「妖狐さーん!

おはようございまーす!」


「お入り」


昨日同様に妖狐さんは玄関脇にいるのかと思ったが、今日は姿が見えない。


「きっとこっちだよ」


シルビアが言う先に行く。

玄関前の壁をすぐ右に折れると、ガラス張りの中庭があった。

そこのイスに妖狐さんは座っていた。


「妖狐さん、おはようございます!

今日のお花です」


「ようやくハサミを使うようになったね。

その調子で頑張りな。

花は花瓶にいれて、このテーブルに」


「はーい!」


シルビアは花瓶を用意すべく奥へ消えていった。


「……して、ユージンはどうした?」


「おはようございます。

その、確かめたいことがあって」


「ほう?」


「俺が魔力を吸う怪人という噂はお聞きになったことがありますか?」


「それについて私がどう思っているのか知りたいのだな」


俺の質問が終わるかどうかという所で、妖狐さんは素早く返事をした。

その返事は、まさに俺の意をみ取ってくれたものだった。


「私はそのような噂は信じておらん」


妖狐さんはふっと笑い、俺の噂を信じていないと言った。

あまりにあっけなく噂話については決着がついてしまった。

では、滞在させている本当の理由は何なのだろうか。

そんな疑問が湧いたが、それはさて置き、俺は妖狐さんと街に出掛ける約束を取り付けたい。


「あ、信じてない……。

よかったです。

あの、今日金の池に行きたいと思っているのですが、ご一緒していただけませんか」


「急だな。

しかし、私が出した条件だ。

一緒に行こう。

午前は来客があるから、午後向かうとしよう」


無事約束を取り付けたところで、ガラスの割れる音がした。

またか。

シルビアが割れていない花瓶を持って来るのを待って、俺は邸宅を後にした。


その日の午後、妖狐さんと連れ立って街へ出た。

大通りに出れば、予想通り嫌でも人目につく。

街全体がざわめいている。

横目でチラッと通行人の様子をうかがう。


「怪人と妖狐様が!?」

「え、なんでなんで?」

「怪人と賢者が歩いている?」


最初はこんな感じで周りは驚きの表情や言動だった。

ところが街中の人が、信頼する妖狐さんと一緒に歩く俺をも段々と信じ始める。


「賢者妖狐の隣で歩くんだから怪人じゃないだろ」

「賢者様とも親しくお話されてるみたい」

「怪人の噂は本当か?」


俺の名誉が挽回ばんかいされている!

賢者妖狐パワーは絶大だ!

俺は、小さくガッツポーズをする。

それを見ていた妖狐さんが、俺にポツリと言う。


「この街に来て苦労させてしまったようだね。

すまないね」


妖狐さんは全てお見通しだったみたいだ。

名誉が挽回される以上に、俺は何かを得た気がした。




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