第30話_贅沢な生活
妖狐さんとの面会を終えた俺は、シルバーフォックスに勤務する使用人さんに屋敷内を案内してもらっている。
「こちらは応接室でございます。
ユージン様もご
いや、俺は使わないかな……と思いつつ、ひきつった笑顔で返事をしておく。
さっきから案内してもらっているが、どうも俺は客人扱いしてもらっているようだ。
怪人を客人扱いするなんて、妖狐さんは寛大だな。
それか油断させて尻尾を掴もうとしてるとか……?
嫌な汗がジワリと出る。
いやいや、俺は魔力を食らう怪人ではないので油断しても大丈夫。
こんな大豪邸なんて今後もご縁があるか分からないし、せっかくだし堪能しようと思う。
「最後に、こちらがユージン様にご用意致しましたお部屋でございます」
二階の一番奥の部屋が俺に用意された部屋だった。
最奥にある工房とちょうど真逆に位置する部屋で、中庭も綺麗に見える。
内装、家具や調度品は全て貴族が使っていそうな高級な品だ。
「何か御用がございましたら、こちらのベルをお使いくださいませ」
雪の模様が刻まれたガラスのベルがテーブルの上にちょこんと置いてある。
この小さなベルでは大きい音は出ないだろうと思ったが、魔力が込められていれば話は別だな、と一人で納得した。
「では、わたくしはこれで……」
「あ、あの! ここにある物は全部使って大丈夫なんですか!?」
俺を置いて使用人さんが立ち去ろうとするので、俺は思わず引き止めてしまった。
使用人さんは笑顔を崩さず答える。
「もちろんでございます。
妖狐様からのお達しでございますので。
それでは、ごゆるりとお
失礼致します」
パタン。
ドアが閉まると同時に、俺は部屋の探索を始めた。
なんせ入ってきたドアとは別にドアがいくつかあるのだ。
まずは玄関入ってすぐの左手前にあるドアから開ける。
……何もない部屋だった。
いや厳密には、ハンガーに服が数着かかっていた。
たぶんウォークインクローゼットってやつだな。
俺は、次に左壁の奥にあるドアを開ける。
こ、これは!
猫足バスタブ!
シャワー!
バスタオル!
ここは風呂だ!!
この死後の世界って所に来てから風呂というものに入っていない。
暑さは感じるが汗だくにはならないし、体臭で臭くもならないし、入る必要が感じられないのだ。
だが必要がないだけで、入りたいかどうかは別である!
俺は早速バスタブに湯を張る。
温かいお湯がバスタブを濡らす。
嬉しさがこみ上げる。
魔力を稼げば風呂にも入れるのか……。
俺は魔力を稼ぐ必要性を死んでから一番強く感じた。
俺はお風呂の準備が終わってから、中庭に解放したソラとフーの様子を見にバルコニーに出る。
秋も終わりつつあり、日が昇って温かくなってきているものの風は少し冷たい。
ソラとフーと言えば今までとても大人しかったが、ようやく緊張が解けて仲良く追いかけっこをしている。
俺はバスタブにお湯がたまるまでの間、マッシモが作ってくれたリュックをじっくり見ることにした。
今更ながらまじまじと見るが、マントのつや感は残したままにシンプルでかっこいいかばんに仕上がっていた。
それでいて使いやすさを重視している。
何よりフーの暴風に巻き込まれたにも関わらず、リュックは無傷だった。
これこそマッシモが一流の職人であることを証明している。
俺は、二つの光を呼び戻す。
「ソラとフー、中に入るぞー!
そろそろ風呂がたまったから」
二つの光が戻ったのを確認して、バルコニーに繋がる大きな窓を閉める。
俺はウキウキとバスルームに向かう。
バスタブにはちょうどいい湯量が入っている。
早速服を脱いでバスタブに浸かる。
温かいお湯が全身を包み込む。
思わず声が出てしまう。
「くはー……きもちぃぃ~……」
そう呟いてパッと目の前を見ると、ソラとフーが湯に浸かってる!?
光も風呂に入る、いや入れるのか。
湯気のせいか、光も少し
気持ちいいのかな?
「気持ちいいよな、最高だよ……な……」
言いかけたところで思った。
なんか俺が知っている風呂とちょっと違う。
猫足バスタブ落ち着かない。
そもそも洗い場がない風呂場なんて落ち着かないだろ。
俺の風呂への愛が爆発した。
「違う、違うぞ!
風呂っていうのはこうじゃねぇーー!」
俺はバスタブ内で
いきなり立ち上がったせいで、ソラとフーは水面であっちに流され、こっちに流され、水に
気の毒な二つの光に気付くことなく、俺は意を決める。
働こう。
この軟禁生活が終わったら、俺は風呂のために冒険者として働く。
意外なところで、新たな目標ができた。
俺は風呂から上がって洗面台の鏡で、死後初めて自分の姿をはっきりと確認した。
基本的には生前の俺なんだが、コンプレックスがさっぱり消えている。
団子鼻はスッとした鼻筋に、顔周りに付いた脂肪は消え輪郭がはっきりし、肌もキレイだ。
生きていた頃の俺を若返らせて整形したような姿だった。
言うなれば、キレイな俺。
悪くはないが、やっぱり俳優のようなイケメンになりたかった。
ただ女神様には会えずともコンプレックスが消えただけマシだな、と考えながら用意された服を着る。
とてもさっぱりしたところで、まだ入っていない部屋の扉を手で押し開ける。
そこは寝室だった。
いつぶりだろうか……こんなフカフカのベッドで眠るのは。
日中の日差しが窓から差し込み暖かい……。
俺の逃げ出したいという気持ちは、もうどこかへ行ってしまっていた。
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