第29話_権力者の命令
「全くあんたは騒がしいね」
俺たちが室内にお邪魔すると、賢者妖狐は玄関脇にある窓にもたれかかっていた。
シルビアは賢者妖狐に言われたことを
「妖狐さん、お花です!
今日はちゃんとできましたよ!」
「あんたにしちゃ上出来だね」
賢者妖狐はシルビアの手当てされた指先に一瞬視線を落としたような気がしたが、特に弟子の絆創膏には言及せずに微笑む。
「シルビア、花を奥の部屋に飾ってきておくれ」
「任せてくださーい!」
シルビアは褒められて嬉しいのか、鼻歌まじりに奥の部屋へ行ってしまった。
俺は美しい統治者と二人きりになる。
「シルビアが迷惑をかけてしまったようだね。
すまないね」
彼女は姿勢を正して言う。
「い、いえ、とんでもないです。
こちらこそ朝早くから来てしまい申し訳ありません」
パリーーン!!
俺が謝ると同時に何かが割れる。
恐らく花瓶だろう。
「くくく、すまないね。
職人としての腕はいいんだが、ドジでね」
賢者妖狐は笑いながら、シルビアについて述べる。
ドジと言いつつも、けなしているようには聞こえなかった。
むしろ楽しんでいる?
「さて、ユージン。
本題だ。
お前さんには、ここに滞在してほしい。
しばらくで構わない」
シルバーフォックスに滞在?
俺は賢者におずおずと理由を尋ねる。
「滞在ですか。
なぜでしょうか……?」
「しばらく滞在すれば分かるさ。
部屋や住むために必要な物は全て揃えよう。
どうだろう?」
明らかに、はぐらかされた。
や、やっぱり、俺が魔力を吸い取る怪人だと疑っているんだ……。
つまり、この滞在は監視のため!
更には罰するため!
「も、もしも、滞在をお断りしたら……?」
俺は最悪を想定して、逃げ道を作る。
「そうだね……基本的には断れないものだと思っておくれ。
どうしても断ると言うなら、それなりの対応をさせてもらう」
ヒィッ! やっぱり俺の予想通りだ!
街の権力者に立てついたら、もうこの界層ではやっていけない……。
それならいっそ、この街の一番偉い人に俺は無実だと証明した方がいい。
そうだ、ポジティブに考えよう。
元々俺は悪いことなんてやっていないのだから。
「わ、わかりました。
滞在はします。
ただ、外出は認めてもらえますか?
金の池に行きたいので」
「そうだね……その二つの光も時々は金の池に帰りたいだろう」
彼女はソラとフーに目をやり、話を続ける。
「ただ一つ条件がある。
私も一緒に行く」
え!? 賢者が同伴!?
めちゃくちゃ目立つな。
でも滞在は断れないし、ここは諦めて金の池に同伴してもらうかない。
俺は自身にかけられた容疑を晴らすべく、権力者の命令に従うことに決めた。
「分かりました。
賢者妖狐様、しばらくの間お世話になります」
「妖狐さんで構わないよ。
では、よろしく頼む」
俺は用事が済んだと思い、そそくさと妖狐さんの邸宅を出ようとする。
だが、出て行くのを止められた。
「待て。
これはユージンの物ではないか?」
彼女のフサフサした手には、マッシモお手製リュックが握られていた。
「あぁぁ!
無くしたと思ってました!!」
「やはりな。
昨日お前さんが捕まっていたボロ屋から見つかってな。
ところで、これはマッシモが作った物のように見受けられるが?」
俺はリュックを有難く受け取りながら、頷いて肯定する。
「そうか。
マッシモと知り合いなのか。
くくく」
何故笑っているのか見当もつかない俺は、シルビアが戻って来たのをいいことにその場を失礼させてもらった。
権力者って怖いな。
さっき覚悟を決めたばかりなのに、俺は早くずらかりたい気持ちになった。
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