第28話_一番弟子シルビア

シルビアが重厚な扉を開けると、内装とは不似合ふにあいな工具などがずらりと並んでいた。

手前の作業台には、青い宝石が埋め込まれた銀のネックレスが乗っている。


「これはシルビアが作ったのか?」


「ううん、これは私の後輩が作ったのだよ。

あ、これ、石のはめ込みが甘いかも〜」


シルビアは作業台の前にあるイスに座り、そのネックレスを直す。

指をケガして絆創膏でグルグル巻きなのに、器用なものだ。

工具をカンカン言わせながら、ぶつぶつ言っている。


「ここはもっとこうした方が……それとここの細工はもっと華やかに……石は増やそう……。

よしっ!

これでいいかな!」


あっという間に、青の宝石が散りばめられた高級感のある銀色のアクセサリーが完成した。

もはや俺が最初に見たネックレスとは別物だ。

人の物をいじくりまわしていいのかは置いておいて、シルビアの腕は確かなようだ。


「見て見て、私今これ作ってるんだ!」


シルビアが指さす先には、光り輝く人形が透明なドーム型のケースに収められていた。

その箱をよく見れば、その人形はバレエの靴を履いている。

バレリーナなのだろうか。

その人形は、全て宝石や銀細工で作れられていた。

一目でシルビアの後輩が作ったアクセサリーとは格が違うと分かった。


「これはすごいな……」


「ふっふっふっ~!

でも、魔力を込めるともっとすごいんだよ!

ユージンさん、三くらいでいいから魔力をこれに込めてみて!」


俺は言われるまま、目の前のアクセサリーに魔力を三だけ込める。

すると驚いたことに、ケースの中の踊り子がくるくるとバレエ特有のつま先立ちで回り出す。

そしてバレリーナがポーズした瞬間、彼女はバラへと変わった。

動くアクセサリー……だったとは……。


「どうどう?

よかった?」


「すごいな……。

こんなの初めて見たよ……」


「でっしょぉー!

自信作なんだ!」


超絶技巧ちょうぜつぎこうだ。

さすが賢者の一番弟子なだけあるな。

少し見直した。


「でもねー、妖狐さんはバラの表現がいまいちだって言うの。

それで観察のために、毎日花を摘んでくることになってね」


あの様子では観察にはなっていないと思うが、黙っておく。

頑張れシルビア。


「あ! そろそろ平気かも。

妖狐さんに挨拶しに行こう!」


窓の外の何かを見ながら、シルビアが元気に言う。

俺は案内されるまま、先ほどの中庭にもう一度出る。


「妖狐さんは、基本的にあの建物に居るよ。

あそこは妖狐さんが自分のために建てた家なんだよ」


中庭を超えて向こう側に、全く風合いの違う建物があった。

日本風建築のような気もしたが、近付いてよくよく見ると中国っぽい建築物だった。

そういえば賢者が着ていた服も初めは天女の羽衣みたいだと思ったが、実は中国の伝統的な服装だったのかもしれない。

俺の思考を邪魔するように、門前でシルビアが大きな声を出す。


「妖狐さーん!

ユージンさんを連れてきましたー!」


「お入り」


少しだけ空いた窓から小さく返事がある。

ついに街の統治者と対面だ。




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