第27話_おっちょこちょいシルビア

俺は悲鳴が聞こえた方向へ走る。


「大丈夫ですか!?」


俺がシルビアを見つけると、彼女はバラが咲く花壇の前でうずくまっていた。


「どうしたんですか?」


「バラを摘もうとしたら、トゲが指に刺さっちゃって」


涙目で俺を見上げるシルビア。

まさか素手でバラのくきを折ろうとしたのだろうか?


「ひとまず中に入って、手当てしましょう」


「でも妖狐さんの言いつけを守らないとぉ」


俺は傷の手当てをするようシルビアに言ったが、彼女は賢者妖狐との約束が第一らしく聞かない。

仕方なく俺は代役を申し出る。


「じゃあ、俺が代わりに花を摘んでおくので、まずは手当てをしてください」


「ありがとうぅ」


俺は庭の美しさを損ねないように、目立たない所に咲いている花を少し摘み取らせてもらった。

中へ戻ると、指先を絆創膏のようなもので指をグルグル巻きにしたシルビアが待っていた。


「わー! ユージンさん、いいチョイスですね!

きれいです!」


「喜んでもらえてよかったです。

ところで、指は大丈夫ですか?」


「このくらいなら大丈夫!

よくやっちゃうので、慣れっこだよ!」


それってダメじゃないか?

少し心配になってきた。


「次は二階のカーテンを開けに行くよ!

ついて来て!」


もはや案内ではなく、雑用の手伝いだな。

俺は薄々案内が名ばかりであることに勘づきつつ、シルビアについて行く。

彼女は中央階段をのぼって、二階のカーテンを開けていく。


「よっ! ほっ! うーん! 取れない」


シルビアがカーテンの前で、ぴょんぴょんジャンプしている。

どうやらカーテンを開閉させる紐が上の方でからんでいるせいで、開けられないらしい。

俺は背伸びをして絡みをほどき、開閉の紐を手渡す。


「ユージンさん、ありがとー!

これで、よっし!」


シルビアは、掛け声と共に勢いよく紐を引く。

その直後、俺の頭上に何かが直撃して視界が真っ暗になった。

ソラとフーも見当たらない。


「痛ってぇぇ! え、え!? これどうなってるんだ!?」


「わー! ユージンさん、ごめんね!!

今助けるね!!」


暗闇の中で身動きが取れなくなっていた俺の目の前が明るくなる。

どうやら俺はカーテンの中に居たようだ。


「引っ張ったら、カーテンとカーテンレールが落ちちゃった。

えへへ」


「おい、シルビア……」


思わず声が漏れる。

まだ頭が痛くてジンジンする。

こいつ絶望的におっちょこちょいなんじゃ……。


「えっへへ。

最後は私の工房に案内するよ!」


彼女は笑って誤魔化ごまかして、小走りで一番奥の部屋へと向かう。


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