第26話_シルバーフォックス

「なんじゃここは!」


俺はとんでもなく大きな屋敷を前に開いた口がふさがらない。


まず豪華な装飾が施されている鉄製の門がある。

奥には、美しく整えられた芝生とシルバーフォックスの店。


……店?

果たして、これは店なのだろうか。

貴族のお屋敷と言われれば、信じてしまうようなたたずまいだ。

これから俺はここに入らなければいけないらしい。

完全にお門違いだ。


門の前でオロオロしていると、門が勝手に開いた。

これは入れということか?

悩んで入らずにいると、どこからともなく


「ユージンさんですね?

お入りくださーい! どうぞー!」


と建物と不釣り合いなお気楽な声が聞こえてきた。


そのギャップに戸惑いながらも、俺は門の中へ進む。

芝生横の道を歩いて建物の入り口までやってくる。


すると正面の大きな扉……ではなく、その横の勝手口が開いて誰かが俺を手招いている。

俺はそちらへ移動し、勝手口から中を見る。

しかし、外が明るすぎて手招いているのが男性だか女性だかも分からない。

声や手の感じからすると女性のようだが、誰だろうか?


「入って入って!」


声の主の言う通りに、建物に入らせていただく。

外が明るくて内に入っても目がくらみ、よく見えない。


「はじめまして。

ユージンさん。

私はシルビアだよ。

妖狐さんの一番弟子なの。

よろしくね」


ようやく目が慣れてきて、ぼんやりとシルビアと名乗った女性が見えてきた。

ポニーテールの可愛らしい若い女の子だ。


「はじめまして。

俺はユージンです。

今日は賢者妖狐さんに言われてここに来ました」


「うんうん、聞いてるよ!

にしても、早い到着だったね!

まだ妖狐さんは休んでるんだよね」


おっと、緊張のあまり早く来てしまったようだ。

そういえば、彼女以外の声が聞こえない。

まだ開店前だったか……。


「うーん……応接室で待ってる?

それとも店を案内しようか?」


俺はどうしようか思案しながら、やっと見えるようになったその目で店内をぐるっと見回す。

俺が居るのは、玄関から入ってすぐの広間。

二階に上がる大きな階段がある。

階段に沿って上を見れば、天井にはシャンデリアがぶら下がっている。

こんな店の応接室でひたすら賢者妖狐を待つのは苦行だと判断し、案内してもらうことにする。


「もしよければ、案内をお願いできますか?」


「もちろん!

じゃあ、早速だけどこっちだよ!

あ、飾ってある商品には絶対触らないでね!

たぶんだけど、ユージンさんの魔力じゃ支払えないくらいの物だから」


彼女は、さらっと恐ろしいことを言ってのける。

よく見れば、アクセサリーが透明なケースに覆われて飾ってある。

まるで美術館だ。

やっぱり高価な品なんだな。

壊したらシャレにならないし、絶対触らないでおこう。

そう心に誓い、シルビアの後を追いかける。


彼女はロビーの奥へ進む。

そこには大きな窓があり、視界が開ける。

窓からはカラフルな花や朝日を浴びる緑が見える。


「きれいですね!」


「きれいでしょー!

中庭だよ!

ここから出られるよ!」


シルビアが外に繋がる大きな窓を開け庭に出る。

俺も彼女に続く。

中庭では立派に咲き誇る花々が俺を出迎えてくれる。

さっきは貴族のお屋敷と言われれば信じてしまうと思ったが、今はこう思う。


ここは疑う余地なく貴族のお屋敷である。


「ここはね、初代の賢者様が作ったお屋敷で、特に中庭を気に入ってたんだって!

私も好きなんだ!」


賢者妖狐が建てた屋敷ではないのか。

歴史のある建物なんだな。


「あ、それでね!

私、妖狐さんに毎朝ここの花を摘んで持ってくるように言われてて。

取ってくるから、ユージンさん、ちょっと待っててね!」


シルビアは走って花の咲く所まで行く。


「待ってますんで、慌てないでゆっくり選んでください!」


あ、今つまずいた。

大丈夫かな。

シルビアが花を摘んでいる間、俺は美しい中庭を堪能たんのうする。

……が。


「痛ったーーーい!!」


シルビアの大きな叫び声が中庭に響く。




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