第25話_賢者妖狐との出会い
「嘘だろ……賢者妖狐じゃないか……」
先ほどまで
黒百合姫が言い間違いを正すかのように、ピシャリと言う。
「妖狐様」
この街の統治者。
ただただ美しい人型をした狐だ。
天女の羽衣のような服も大変似合っている。
ついつい見惚れてしまう。
妖狐は捕えた冒険者たちには目もくれず一直線に俺へと近づき、銀色の美しい毛が俺に触れるかどうかの距離で立ち止まる。
彼女が俺の耳元で一言。
「明日私の店へ来な」
キョトンとした俺だけを置き去りにし、賢者は建物を出て行ってしまった。
立ち尽くす俺を気にかけてくれたのか、黒百合姫が俺に声をかける。
「帰って大丈夫」
俺と視線を合わせず彼女はそれだけ言うと、自分の仕事を始めた。
邪魔になってもいけないので、俺はフーとソラを引き連れて建物から出ることにした。
俺は誘拐犯の三人が座る横を通った。
すれ違う時に暴言のひとつでも言われるかと思ったが、奴らは静かに震えていた。
「もうダメだ……タマラの街に連れて行かれるんだ……終わりだ……」
タマラの街?
震えるほどの恐怖を感じる街ってどんな所だ?
まだ知らないことが多いと実感しつつ、タマラという単語は恐怖と紐づけられた。
俺は金の池源泉に帰って来た。
だが、さっきの出来事で頭がいっぱいだった。
賢者妖狐はなぜ俺を呼び出した?
やっぱり俺が光を操って人の魔力を吸い取っていると思っているのだろうか。
だとすれば、明日の呼び出しはあまり
かと言って、逃げ出すわけにもいかなそうだ。
なにせこの街を治める人に目を付けられてしまったのだから……。
テントの端から端をゴロゴロと行ったり来たりして、結局一睡もできず朝を迎えた。
まだ早朝であったが、俺はフラフラと
気付けばWEEKENDさんの軒先に立っていた。
「え!? ユージンさん!?」
偶然にもヘイブンさんが扉の前で立っている俺を発見した。
どうやら店の開店準備にやって来たようだ。
「助けてヘイブンさん!」
俺は半べそをかきながら、ヘイブンさんにしがみつき助けを求める。
彼は動揺しながら、俺に問いかける。
「ユージンさん、一体何があったんですか!?」
「ヘイブンさん!
どうしよう! 賢者妖狐に呼び出されてしまった!! もう終わりだ!!」
半べそ半狂乱の俺を見て、ヘイブンさんがますます動揺する。
「え、え、ユージンさん、大丈夫ですか!?
一度落ち着きましょう、ね、ね?
コーヒーお入れしますから」
ヘイブンさんは、うなだれた俺を開店前の店に入れてくれる。
俺をカウンター席に座らせて、彼は手早くコーヒーを入れる。
コーヒーのいい香りで少しずつ落ち着いてくる。
「それで、どうされたんですか?」
俺の前に湯気の立つコーヒーを置き、ヘイブンさんが聞く。
昨日冒険者組合で別れた後に起こった事を詳しく話す。
「そんな事件が!
しかし妖狐様が直々にいらっしゃるとは何事でしょうかね」
誘拐事件について聞いたヘイブンさんが、率直な感想を漏らす。
「女神様に会ってない俺を、賢者妖狐は魔力を吸い取る怪人だと思ったんでしょう……。
だから、きっと呼び出したんです……。
きっと俺は厳しい罰とか与えられて……もう終わりです……」
俺は白目で話を終える。
ヘイブンさんは優しく言う。
「そんなことないですよ。
妖狐様は噂の
「そ、そうですか?」
俺は少し生気を取り戻した。
でも不安は残る。
「じゃ、じゃあ、なぜ俺なんかを呼び出すんでしょうか?」
「う、うーん、どうしてでしょうかね?
そればっかりは、行ってみないことには分からないですよ」
「うううぅ、やっぱり不安だぁ~」
泣き言ばかり口から出る。
そんな俺をヘイブンさんは優しく慰めてくれた。
ソラとフーも俺の周りをフヨフヨと飛び慰めてくれていた。
みんなに励まされて、俺は統治者の元へ行く覚悟を決めた。
ヘイブンさんから賢者妖狐の店であるシルバーフォックスの場所を教えてもらう。
俺はコーヒーのお代を払い、出発することにした。
「ありがとうございます。
また何かあればいつでも来てくださいね!」
ヘイブンさんの優しさが心に染みる。
俺は手を振り、その場を離れた。
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