第24話_脱出の試み

ソラは、話し込む三人の真ん中まで移動した。

そこで強く光り、奴らの気を引くように仕向ける。

あごひげの男が気味悪そうに追い払おうとする。


「うわ、なんだよ。

気持ちわりぃな!」


あごひげの追い払おうとした手にぶつかる直前に、ソラは消えた。


「ん? 消えた?」


誘拐犯たちがソラを見失っていると、ソラはパッとあごひげ男の真横に再登場した。

それに真っ先に気付いた長髪の男が、見てはいけないものを見てしまったような顔で声を絞り出す。


「よ、よこ、横……」


長髪男に促され、あごひげも横を向く。

次に聞こえたのは、叫び声だった。


「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


あごひげ男は情けないほどの大声を出し、尻もちをついた。

二人は失態をさらしたが、リーダーと思われる女だけは動じなかった。

パッと俺の方へ振り返った彼女は、俺に鋭い視線を投げる。


だが、俺はもう自由の身だった。

ソラが起こした騒動の間に、フーに風で縄を切ってもらった。

『優しく』とオーダーしたものの、俺のズボンは少し破れている。


リーダーの女と対峙した時には、俺はすでに壁沿いに立ち上がっていた。

彼女は、予期せぬ事態にイラ立っていた。


「あんた、なんで立っていやがる」


俺は彼女の言葉を無視して、フーに声をかける。


「フー、この壁に向かって強い風を放って」


俺が立つ壁に風穴が開けば、そこから脱出できると俺は踏んだ。


「そうはさせるか!」


俺の思惑おもわくに気づいたリーダーが、俺の逃亡を阻止するために俺に向かって駆け出す。


まずい。

これでは、逃げるより先にまた捕まってしまう。


捕らえようとする女の手が俺を掴もうとする時、フーが風を解き放った。


ドコォォッ!!!


俺の言う通りに強い風を発したフーだったが、全ての願いは聞き届けられなかった。

風は壁でなく、無法者の冒険者たちに向けられていた。


俺の真正面には、服が吹き飛んで露出度の高い格好になった美女が俺に手を伸ばしている。

自分があられもない姿になっていることに驚いて、女は大事なところを隠す。


あ、ごちそうさまです。


「て、てめぇ! な、な、な、なにをしやがった!!」


わめく彼女の背後は、風でぐちゃぐちゃになっていた。

取り残された二人の男たちも、やはり同様にほぼ丸裸だった。

だが、不思議なことに三人にケガは見受けられなかった。


奇妙な光景に立ちすくむ俺。

そこに何者かが建物に突入する。


「動くな!」


フーによって破壊されたドアから、黒い服を身にまとった背の高い人がこちらをにらみつけている。

この情景を見てか、その人はこぼす。


「ひどい」


俺は新たに登場した人物が、三人組のボスなのかはかりかねていた。

場合によっては、再度フーに壁を破壊してもらって逃げなくてはいけない。


黒百合姫くろゆりひめさま……」


露出過多の女がポツリとつぶやき、黒服の人物に熱視線を送る。


黒百合姫?

たしか伝説的冒険者で、今は統治者の元で働いているんだったか。


黒百合姫と呼ばれた人物は、熱視線に反してゴミを見るように視線を返す。


「その名前は嫌。

身に余る」


そう吐き捨て、黒百合姫は目にも留まらぬ速さで布を羽織らせて誘拐犯どもを縛り上げた。

実際、俺は彼女を目で追うことができなかった。

とんでもないスピードだ。

始末を終えた黒百合姫がとある人物を呼ぶ。


妖狐ようこ様、おしまいです」


月夜に美しい銀の毛をなびかせて現れたのは、キツネの麗人れいじんだった。










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