第23話_誘拐

この界層にやって来たばかりだった俺を連れ去ろうとした冒険者三人衆。

屈強な男たちを連れた美女は、再び会った俺に言い放った。


「今会ってたコーヒー屋の店主が酷い目に遭うのは嫌でしょ?

なら、大人しくあたしたちと一緒に来なさい」


下劣な笑みをした奴らは、何かをしでかしそうだった。

お世話になった人が酷い目に遭うのは避けたいが、一緒に行けば俺が酷い目に遭うのは分かりきっていた。


三人は俺に考える隙を与えず、ガバッと大きいマントを俺に被せる。

俺は両脇から男たちに抱えられ、ほぼ宙に浮いた状態で連れて行かれてしまった。

完全に逃げるタイミングを逃してしまった俺は、誘拐された。


マントを剥がされ、背負っていたリュックもはぎ取られた。

俺は手足を縛られた上で、どこだかも分からない小汚い床に転がされる。

三人衆の一人、ナイフを携える長髪の男がぼやく。


「ったく、最初から大人しくついてくりゃいいものを。

マッシモがしゃしゃり出てこなけりゃ、すぐ終わったのにな」


長髪の横に立つあごひげの男が、相づちを打って同意する。


「さすがに街トップクラスの職人が絡んでくると面倒だからな。

しっかし、金の池に住まう怪人って呼ばれてるんだよな、こいつ。

あの時はいなかった妙な光が一緒だし気味わりぃよ」


「気にすることはないわ。

ただの変わり者よ。

あたしたちはボスにこいつを引き渡したら、終わりだから」


お姉さんの話によれば、俺はこの後に誰かに引き渡されるらしい。

この先、きっと逃げるのは難しくなっていくだろう。

今ならまだ知っている場所かもしれない。

逃げるなら、今。


三人は俺が逃げられないだろうとたかくくって、俺に背を向けて話し込んでいる。

どうやらマッシモお手製リュックの品定めをしているらしい。

あのリュックは奪い返したいが、今はまず逃げることを考えよう。


ここは一か八かだ。

俺は賭けに出る。

幸い口がふさがっていなかったので、奴らに聞こえないように小声で話す。


「ソラとフー、聞こえるか?」


俺の声に反応して、二つの光が俺の眼前にまで来る。

より小声でソラとフーに指示を出す。


「まずソラは、あの男たちの前で出たり消えたりして気を引いてくれ。

フーはその間に俺の手足の紐を風で切ってくれ。優しくな」


俺は金の池源泉にあった木のようになぎ倒されたくなかったので、フーには一言付け加えた。

俺は実行の合図をする。


「よし、いこう!」


二つの光は控えめにピカピカと輝いて返事をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る