第21話_クリーチャー

俺はドギマギしながら返答に耳を傾ける。


「それはね、クリーチャーだ」


クリーチャー!?

それってバケモノのことだよな。


オハナがクリーチャーについて補足する。


「この界層に送られてきた人間が魔力を完全に失うと、その人は現世に行くよね。

人間界に去った人の持ち物は同時に消えるが、たまに残ってしまうものがあるんだ」


「取り残された物がクリーチャーになってしまうんですね……」


俺の脳内では、取り残されたベッドや服などが恐怖の怪物になって人を襲っていた。

ヘイブンが俺の脳内を覗いたかのように苦笑いしながら、俺の考えを否定する。


「全てではありませんよ。

所有権次第です。

下界送り、つまり現世に戻される人たちが作ったものは、その人の持ち物であれば共に消えてしまいます。

一方、所有権が下界送りになった本人にない場合は、この界層に残ります。

残ったものには、生き物が含まれていることがあります」


ヘイブンの言葉を聞いてピンときた俺は答える。


「クリーチャーは、所有権を失った生き物ってことですね!?」


ご名答! と言うように、オハナが親指と中指をスナップさせて音を鳴らす。


「誰のものでもなくなった生き物が野生化すると、人を襲うこともあるんだ。

だから護衛や退治の依頼もあるというわけさ。

ただね、君にはオススメできない仕事だ」


オハナにクリーチャーとの戦いを止められる。

俺は当然だなと思う。


「やっぱり初心者には向かないですよね」


「いや、そうじゃなくて、クリーチャーから攻撃をされると魔力が減るんだ。

つまり、ここに来たばかりの君には……ね、分かるだろう?」


いや、全く分からないが!?

魔力が減ってゼロになる心配をしてくれているのか?

でも『来たばかり』なのは、関係ないよな?


俺の困った様子を察したヘイブンが、オハナに伝える。


「オハナさん、彼は女神様の説明を受けてないんです」


「はぁ!?

そんなわけないだろう!

冗談だろ?」


オハナのリアクションを受けて、俺はボソッとつぶやく。


「冗談だったら、どんなによかったか」


俺のつぶやきが効いたのか、オハナは謝ってくれた。


「あ、いや、すまなかったよ。

そんな人間がいると思わなくてね。

いや、驚いた」


「それで、クリーチャーとの戦闘に俺が向かない理由って何ですか?」


俺は脱線する前の話に戻す。


「それは来たばかりの君がクリーチャーと遭遇してしまえば、地縛霊になってしまうかもしれないからだよ。

死者が死後の世界に馴染む前に魔力がゼロになった場合、地縛霊になる。

だから君にクリーチャー関連の仕事はオススメできない」


俺は生唾を飲み込み、率直な感想を述べる。


「なるほど……それはやりたくないです」


「ははは。

でもね、こっちでの生活が落ち着いたらチャレンジしてみるといいよ。

冒険者として腕を認められれば、街を治める賢者様に召し上げられるかもしれないからね」


賢者様? という顔をしていると、ヘイブンさんがすかさずフォローしてくれた。


「妖狐様というお名前を聞いたことありますか?

この街を統治しているのが、賢者である妖狐様ですよ」


そういえば、マッシモが妖狐さんとか言っていたな。

俺が過去の記憶を手繰たぐり寄せる間に、オハナは伝説的人物について語り出した。


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