第18話_コーヒー屋のヘイブン

「お水をどうぞ」


顔に笑みをたたえた男性が、見上げた俺にグラスに入った水を差し出す。

俺が水を受け取らずにいると、彼は自己紹介を始めた。


「追いかけてしまい、すみませんでした。

私はコーヒー屋WEEKENDのヘイブンです。

マッシモさんに頼まれた事があって、ユージンさんを探していました」


「んなっ!?

マッシモのお知り合いだったんですか!?」


「ええ、そうなんですよ」


ほがらかに返事をするコーヒー屋のヘイブン。

マッシモの知り合いで俺を探していたなんて、俺は何のために逃げていたんだ。

自分の失敗にガックリする。


折角せっかくなんで、中に入りましょう。

どうぞどうぞ」


ヘイブンが『WEEKEND』と書かれたガラス戸を開けてくれる。

俺はもたれ掛かっていた壁から離れ、コーヒー店に入る。


「お好きな席にお座りください。

今新しいお水お出ししますね」


ヘイブンは手早くエプロンを付けながら、カウンターテーブルの奥にあるキッチンに向かう。

ここは現代のおしゃれなカフェで、自分はまだ生きていると錯覚さっかくしそうだ。

俺はカウンター席に座らせてもらう。


「こちらお水です。

先程は申し訳ありませんでした」


俺はいただいたお水をグイッと一気飲みする。


「プハッ!

いえ、俺も早とちりしてしまって。

こっちに来てから、冒険者に連れ去られそうになったり、商人の押し売りに遭ったりしたもので……」


グラスに水を追加するヘイブンの手が止まる。


「え!? そんな酷い目に遭ったんですか!?

だから、お逃げになったんですね」


「そうなんです。

にしてもヘイブンさん、追いつくのが早くて驚きました」


「はは、この街を知り尽くしていますから」


ニコッとヘイブンは俺に笑いかけたが、俺は息もあがらず追いついたのは少しおかしいと感じている。

俺が長考に入る前に、ヘイブンは飲み物を勧める。


「おびも兼ねて、挽きたてのコーヒーなんていかがですか?」


「ありがとうございます!

いただきます!」


俺の返事を聞くと、ヘイブンはコーヒー豆をく。

店に入った時からそうだったが、店内はコーヒーのいい香りでいっぱいだ。

ヘイブンはコーヒーを作りながら、マッシモとの間柄あいだがらについて語る。


「昨日マッシモ商会さんにコーヒーのポットを回収しに行った時、マッシモさんからユージンさんのことを聞いたんですよ」


俺は昨日マッシモの店で飲んだコーヒーを思い出した。


「あ! あのコーヒー!

あれは、ここのだったんですね」


俺はマッシモ商会の応接室で飲んだコーヒーを思い出す。


「ええ、商談の時などによくご注文を頂いています。

それ以外にも、こちらにも飲みにお越しいただいて」


マッシモとの繋がりがはっきりして、俺は少し安心した。

警戒が完全に解けたわけではないが。


「そうそう。

マッシモさんから渡すように頼まれたのは、こちらのカバンです」


ヘイブンがカウンター下から取り出したのは、革のカバンだった。

見覚えのある革だ。


「マッシモさんからの伝言です。

『革のマントはリュックにしてやったぞ!

これで荷物を手で抱えなくて済むな!』とのことです。」


ヘイブンがマッシモの声真似をしながら、伝える。


あぁ!あのマントか!

作るの早いな!

でもリュックにあれだけの押し付けられた品は入らないだろ。


俺の不信そうな目を見て、ヘイブンがフォローを入れる。


「このリュックに念じて魔力を込めれば、見た目以上に荷物を入れることができますよ。

それにマッシモさんお手製なら、相当な魔力量に耐えられるはずです」


なるほど、魔力を込めるのか。

とてもいい物をもらったようだ。

マッシモありがとう。と心でお礼を言っておく。


「ところで、ユージンさんは女神様から説明を受けていないと聞いたのですが……」


俺の心臓がどきりとする。

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