第17話_WEEKENDにようこそ

怪しい人物だと思った瞬間に、俺はベンチから立ち上がり走り出していた。

今までを思い返せば、この世界で見知らぬ人間が危険なのは明白だ。

見知らぬ冒険者三人組に突然連れて行かれそうになったり、街を歩くだけで見知らぬ商人から大量の物を押し付けられたり……とにかく知らない奴はヤバい。


俺はできる限り笑顔を浮かべながら手を振る人物から距離を取る。

しかし俺が走れば、相手も走って追いつこうとする。

お互いの距離は広がらない。

とうとう金の池出入口まで走って来てしまった。

後ろの方から追いかける男の声が耳に入る。


「待ってくださーい!」


金の池ではこいつを振り切れないと俺は判断し、仕方なく街に出ることにした。

大通りに出た俺は、余裕なく走り続ける。

相変わらず通行人は光を引き連れた俺を避けるが、今日に限っては道が開けて都合がよかった。


俺が押し売りに遭った大通りの噴水を通り越して、西へとひた走った。

ヘンテコなポスターを押し付けたウノちゃんの店舗がある方向だ。

マッシモと歩いたおかげで少しは街の地理がわかる。

俺はウノちゃんが店を構える薄暗い小道に逃げ込む。


「ったく、一体何なんだよな。ハァハァ」


肩で息をしながら、俺はソラとフーに愚痴をこぼす。

ふと気配を感じて、小道の入り口を見返す。


「待ってくださいよ」


そこには、振り切ったはずの笑顔の男がたたずんでいた。

しかも息ひとつ切らさずに。

俺は背筋が冷たくなるのを感じた。


「来るな!」


静かに微笑む姿にゾッとした俺は一言発して、再び追いかけて来る男から逃げ惑う。

小道を走り抜けて奥へ向かうが、突き当りにぶつかる。


「くっ、どっちだ!?」


右の道は、暗い上に道幅も狭くなっていた。

もしかしたら行き止まりかもしれない。

他方、左は明るく道が続いていそうだった。

俺は行き止まりを避けるべく、左へと曲がって走り続けた。

だが驚くべきことに、俺の後ろにいるはずの男が俺の行く先に現れた。


おかしいだろ。

先回りされているなんて……。


「ユージンさん、逃げないでくださいよ」


男はにっこりと笑いかけながら、俺の名を呼んだ。


なぜ俺の名前を知っているんだ!?


ますます混乱した俺は、咄嗟とっさに手前の細い道へ飛び込んだ。

もはや、どこに向かって走っているのか分からなかった。


俺は道なりに走って走って走った。

どうにか男の姿が見えなくなり、俺は植え込みがきれいに並ぶ道でヨロヨロと立ち止まる。

呼吸が苦しい。

あまりにも辛かったので、カフェらしき壁にもたれ掛かって呼吸を整える。

ふいに肩を叩かれる。


「大丈夫ですか?

私の店、WEEKENDにようこそ」


俺を金の池から追っていた男が満面の笑みで言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る