第16話_禁じられた遊び

ベシッ!!


痛い。

何かが顔面に直撃した。

目をうっすら開く。


ベシッ!!


もう一撃。

今度は見えた。

フーが風を俺にぶつけている。

なんか攻撃的だな……どうしたんだ?


俺はせっかくのテントも使わず、昨日立ちくらみを起こして倒れたままだった。

体は問題なく動いたので上半身を起こすと、俺の周りに草が散らばり緑一色になっていた。

この草はなんだろう?

フーからの抗議?

俺は疑問に思ったことをそのまま口に出した。


「昨日は遊んでやらなかったから怒っているのか?」


するとフーは突然俺の脇に生えていた草を


スパァッ!!


と風で切った。

かまいたちだ……というか、怒っている?


震える俺を無視してフーは、また風の力を使う。

ふわりと目の前に浮かび上がる切られた草。

浮かんだ草は一直線に近くの木にぶつかり、鈍い音がドスンッと鳴る。

木の幹には打撃痕が付き、その周辺には草が散らばっている。


フーは朝日に負けないくらいチカチカとまばゆく光る。

どうやら俺にこれを見せたかったらしい。


分かる! 新しいことを習得して嬉しいのは分かる!

でも力加減を間違えてたら、俺消し飛んでるよね?

もしもし、フーさん?


俺の思考は、とある光景によって中断された。

源泉奥の木がゆっくりと傾いていく。

そして、地響きを立てて木が倒れた。


俺は何が起きたのか把握するために、辺りを見回す。

そこには、かまいたちを連射しているフーが居た。

しかもソラに向かって……。

ソラは瞬間移動でかまいたちを避けている。

だが逃げ回っているわけではなく、時々フーの横に現れて挑発している。

これは遊びだ。

とんでもない遊びだ。

金の池の源泉が破壊し尽くされる前に、俺は二つの光を止める。


「その遊びは、そこまでだ!!」


俺は倒れた木を指差しながら、今後この危険な遊びはやらないように言いつける。

かくして、危険な遊びは禁じられた遊びになった。


俺はマッシモからもらった服に着替えながら、今日の予定を考える。

やはり今日は、ゆっくりしよう。

昨日は刺激が強すぎた。

少し休む時間が必要だろう。

俺は俺に甘いのだ。

結論を出した俺は、シャツとチノパンというシンプルないで立ちで金の池へ向かった。


ソラとフーと一緒に茂みから出て、いつものベンチに座る。

慣れたものである。

ただ不慣れなのは、時々歩いてやってくる人々の俺を見つめる目だ。

昨日街に出て俺が『金の池に住まう怪人』と知ってしまったから、この目が気になる。


俺がすれ違う人たちの視線をやり過ごそうした時だった。

『怪人』の俺を見る目つきと違う人物が一人、遠くからこちらに歩いて来る。

今まで会った人たちとは違い、とても現代的な格好をしている。

ベージュのキャップをかぶり、ジーパンに白の長袖Tシャツ姿だ。

その現代的でラフな格好をした男性が、俺に手を振りながら近づく。


俺の知り合いか?

待て。

ここに俺の知り合いはマッシモしかいない。

じゃあ、あの笑顔で近寄って来る男は一体誰なんだ?

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