第13話_マッシモ商会
俺たちは日暮れで長くなった影と共に歩き、大通りから外れた道まで来た。
そこは街の出入り口で、俺がマッシモと初めて出会った場所だった。
「ここが我がマッシモ商会だ!
と言っても、そのうちのひとつだかな!
がははは!」
マッシモは自分の店に着く頃には、すっかり元気を取り戻していた。
彼の後ろに控える店は大きくはなかったが、シンプルながらもさり気ない装飾がされており品の良さが際立っていた。
これは儲かっているな、と俺は確信した。
マッシモは店を前に突っ立つ俺を招き入れる。
「ま、入ってくれや!」
植物の柄があしらわれた木製の大きな扉をマッシモがギィーと押し開ける。
中には人が数名おり、一様に青色のエプロンを装着していたので店員だと分かった。
彼らは、すぐにマッシモのそばに集まって挨拶もせずに次々と報告を始める。
「マッシモさん、今日はいつもの宝石商がお見えになりました」
「探していた例の石材の入荷があり、ようやく次の工程に進めそうです」
「こちら本日の帳簿です」
「あら、そちらはお客様でいらっしゃいますか?」
店員の一人が俺の存在に気付く。
「ああ、こいつはユージンだ。
客じゃなくて、俺のダチだな!
報告は後で聞く。
まずはユージンと話すから。
それと誰かこのマントを俺の部屋に持って行ってくれないか?」
指示を出された店員たちは一斉に動き出し、マッシモは俺を入口からすぐの応接室に案内した。
驚いたことに、応接室には来客用のコーヒーがすでに用意されていた。
「コーヒーでよかったか?
紅茶もあるが?」
「いやいや、コーヒーでいいよ!
ありがとう」
こっちに来てから初めて飲食する。
今まで腹が減らなかったから飲まず食わずだったが、大丈夫だろうか?
不安に感じながら、恐る恐るコーヒーを一口飲んでみる。
口に含んだコーヒーは、死ぬ前に飲んだコーヒーと何一つ変わらず程よい苦みがあって温かい。
ほっとした俺を見て、マッシモも満足げだ。
そこへ女性店員が俺たちのいる部屋に顔を出した。
「テントのご用意できました。
いくつか種類がございましたので、全てお持ち致しました」
マッシモは部屋に無断で入って来た彼女を
そしてマッシモは女性店員の持ち込んだテントから中からひとつ選び、他を下げさせた。
用が済んだ店員が部屋から退出した後、マッシモは俺の方へ向き直った。
「ユージン、おめぇ野宿してんだろ?
だったら、これがオススメだ。
ちょっとかさばるが、通年使えて組み立てもワンタッチだから、これにしとけ」
「俺に!?
てっきり仕事なのかと思ったよ!」
まさか自分のために用意されたとは思わず、俺は驚きの声を上げる。
しかも、いつの間に手はずを整えていたのか分からない。
やはりマッシモはやり手だ。
それはそうと、果たしていくらなのか。
「ところで、それの値段は?」
テントが置かれた机をトントンと指先で何回か叩いて、マッシモは考えている。
彼が出した答えは
「1,000マリ。
それでいいぞ」
「マリ? なんだそれ?」
聞き馴染みのない『マリ』について俺が尋ねると、かっこいい決め顔を作っていたマッシモはズッコケた。
「悪い、俺の説明不足だったな。
マリっつーのは、魔力の単位だ」
話を進めるマッシモに、俺は改めて『魔力』について問いかける。
「さっきも聞いたが、魔力って何なんだ?」
マッシモは声のトーンを落として、真面目な口調で聞き返す。
「本当に知らないのか?」
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