第12話_フィッカの才能

マッシモはしょんぼりしている。

歩きながら弟子であるフィッカについて語り始めた。


「あいつには才能がある。

俺はそれに気が付いて、路頭に迷う寸前だったあいつを弟子に迎えた。

そりゃあ、もうメキメキと頭角を現したさ。

だがな、ある日ちょっとした事で揉めてな」


「ちょっとした事?」


マッシモは俺の質問に一瞬沈んだ表情を浮かべたが、すぐに答えてくれた。


「勘違いだな。

ある日、からくり時計を共同で製作していたんだ。

俺がそれに仕込んだ人形があったんだが、そいつは俺がずいぶん前に開発した代物でな。

時の経過と共に成長する魔具だったんだ。

それを見たフィッカはなぜか激怒して、俺の店を飛び出しちまった」


「え? なぜ?」


訳が分からなかった俺は、マッシモに詳細を求める。


「フィッカが出て行った部屋に、俺が時計に使った人形とほぼ同じ仕様書が残されてたんだ。

恐らく奴は、自分が開発した魔具を俺が無断で使用したと勘違いして怒ったんだろう」


「え、それって、まさかマッシモが考えた魔具と同じものをフィッカが思い付いていたってことか!?」


「そのまさかだ!

俺が数十年も前に考え出した魔具をフィッカが知らないうちに考案しちまったんだよ!」


「そんな事あるか!?」


俺はまさかの偶然の一致に驚きを隠せない。


「そう言いたくなる気持ちも分かる。

たまたまフィッカは俺が開発した魔具と同じものを思いついちまったんだ。

だがな、こうも言える。

俺が考え出した魔具と同じものを発案できるフィッカはやっぱり見込みがある」


マッシモがフィッカという職人に相当期待していることがうかがえる。


「だから、ああやって店に行って戻るように説得してるわけか」


俺はようやく今さっき出くわした光景に合点がいった。


「そういうことだ。

俺の所で働いていた時の金で、自前の店を持ったがいつまで続くか。

まだまだ教えてやりたいことだって山ほどあるんだ。

あいつは俺以上の職人になれる可能性だってある。

だが聞く耳を持ってくれないことには……はぁ」


フィッカはかわいい弟子で、まだまだ心配でたまらない。

マッシモからはそんな感じがありありと伝わってきた。

二つの光も慰めるようにマッシモの周りを飛んでいた。


「慰めてくれてるのか?

ありがとな」


一日の終わりを告げる寂しげな夕日が俺たちを包む。



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