第11話_マッシモの弟子

目的の場所は、大通りに面した白くて小ぶりの建物だった。

夕方になりつつあり、玄関前に取り付けられた花を模したランプに明かりが灯っている。

マッシモは、かわいい建物に似つかわしくない力任せな動作で白木の扉を押し開けた。

扉は大きな音を立てて、中にいるお客たちを驚かせた。

エプロンをつけた細身の女性が、その騒ぎを聞きつけて小走りでやって来る。

その女性がマッシモの姿を認識した途端に、二人に不穏な雰囲気が漂う。

ソラとフーもその雰囲気に気圧けおされたのか、俺の後ろに隠れる。


「またてめぇか!

ジジィ!」


女性が汚い口調でマッシモをののしる。

それに負けじと『ジジィ』呼ばわりされたマッシモも応戦する。


「ジジィだと!?

マッシモさんと呼べ!

このガキがっ!!」


これは、もはや喧嘩だ。


「ガキじゃねぇ!

天才職人フィッカだ!」


「何が天才職人だ!

まだまだヒヨッコなくせして!

売り方だってなってないぞ!

これを見ろ!」


そう怒鳴って、ふところからさっきのミニチュアテントを取り出した。

フィッカと名乗ったその女性は『げっ! 何故それがここに!?』という苦い顔をしていた。


「お前はまたこんな押し売りなんかしやがって!」


「う、うるせぇ!

私の素晴らしい品を知ってもらうチャンスなんだ!」


「押し売りなんかじゃ誰が作ったかなんて分かるか!

そもそもこんな小さい物なくすだろうが!

ユージンが見つけてくれなきゃなくなってたぞ!」


マッシモがいきなり俺を名指ししたので、マッシモとののしり合っているフィッカという女性がこちらをにらむ。

いらん喧嘩に巻き込まれたくないと思い、俺はわざとらしく視線を外す。

目を合わせないように、フィッカの背後にある店内をチラ見する。

買い物中のお客さんたちが口々に


「またやってるわね」

「ホント親子みたい」

「仲がいいことだ」


とコソコソ話している。

どうやら二人の言い争いは、日常茶飯事らしい。

そして当の本人たちは、まだ言い争っている。


「俺はお前の腕を認めてる!

いい加減俺の弟子に戻れ!」


「やなこった!

またてめぇに師事するくれぇなら一人で十分だ!」


「一人で十分じゃないから言ってんだ!」


「うるせぇ!

とっととうせやがれ!」


フィッカはマッシモが持つミニチュアテントをぶんどると、ドアをバタンと閉めていなくなってしまった。

話はこれで終わりとなってしまった。

マッシモは弱々しい声でポカーンと立つ俺にびる。


「はぁ……みっともねぇところ見せちまったな。

行こう。俺の店に案内するよ」

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